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自治体のシステム調達プロセスにおけるポイントについて詳しく解説!

システムの調達では、発注者側が適切に関与しない場合、予算オーバーやスケジュール遅延、期待していたシステムが導入されないといった問題が発生しやすくなります。例えば、システムへの要求事項が曖昧であったり、プロジェクト管理の体制が不十分であったりすることで、調達が上手くいかなかったという事例が多くあります。
本記事では、自治体におけるシステム調達について、システム調達の基本概念、計画の立て方、実施手順、導入後の管理と評価までを詳しく解説することで、実務的に役立つ具体的な手法を学び、自治体の職員の方々が発注者としての役割を果たすための知識を身につけることを目指しています。また、システム調達のプロセスを理解し、具体的な課題を解決するための知識と方法を身に着けることで、円滑なシステム調達と期待通りのシステム導入を行い、業務の効率化や行政サービスの質を向上させるための一助となることを目指しています。
なお、自治体におけるシステム調達についての記事ではありますが、その他の公共組織の方や民間企業の方にも役立つ内容となっていますので、ぜひ一読ください。

1. システム調達の目的と重要性

システム調達は、新たなシステムの導入や既存システムの刷新等がありますが、それらは全て業務効率化や住民サービスの向上という目的を達成するための重要な手段となります。
そのため、適切にシステム調達が行われれば、目的が達成される一方で、適切なシステム調達が行われないと、たとえシステムが稼働したとしても、期待通りの効果を得られず、結果として、業務効率化や行政サービスの質が向上という目的が実現しない可能性が高くなります。
したがって、システム担当者の業務の中でも、システム調達は重要な業務の一つと言えます。
例えば、適切なシステム調達を行うことで期待できることとしては下表のようなことが考えられます。

2. システム調達のスケジュールとプロセスの概要

自治体の業務は議会で承認を受けた予算によって遂行していくことが基本となるため、システム調達を予定している前年度において、概算見積の依頼を行うことが多いと思います。
ただ、新規にシステム導入を予定している調達案件やシステム改修・更新を予定している調達案件の中には、まずシステム化をすることや更新を完了させることが先行してしまい、本来の目的が明確化されず、システムに求める要件が曖昧なまま予算確保のために事業者にとりあえず見積書を提出してもらうということもあると思います。
そうした場合に、想定より高い金額の見積書が提示されたり、財政部門によるヒアリングの際にうまく回答ができず査定に影響してしまったりということが起こります。
本章ではシステム調達におけるスケジュール及びプロセスの概要について説明します。

なお、システムを調達(発注)する側の担当者が実施すべきことやポイントについてはこちらの記事をご覧ください。本特集は、市販のパッケージ製品を導入検討している際の業務を解説していますが、システム調達を経験したことのない自治体職員でも進め方自体は参考になると思います。

特集記事:システム発注の業務を徹底解説

2-1. システム調達スケジュールの概要

実際調達を進めていく際の調達スケジュールのイメージを下表に示します。
下表では実際の導入や改修・更新作業をN年度、調達業務を行う年度をN-1年度として、年間を通してのスケジュールを示しています。
N-1年度にシステム調達を行うとした場合、その前年度には、要求事項を検討するための事前のシステム調査を行ったり、システム調達において外部の専門業者に依頼を検討している場合の経費についての予算要求などを行ったりします。ただし、システムの規模によってはプロジェクトの開始時期を早くしたり、システム調査のための経費の予算要求を行ったりする関係でN-3年度から動き出す場合もありますので、状況によってスケジュールを検討することが重要です。
このように、調達については、自治体の状況や業務内容、システム規模によって、スケジュールが異なります。そのため、調達における流れとしては大きく違わないのですが、下表におけるシステム調達スケジュールは「基本的なスケジュールのイメージ」として示します。


※N-1年度におけるフェーズについては本章の最初で紹介した特集記事の中で詳細に説明がありますので、そちらを参照してください。

2-2. システム調達プロセスの概要

システム調達プロセスの各ステップを理解することは、調達を円滑に進めるために重要です。
いきなり調達手続きを進めるのではなく、必ず、現状把握やニーズの特定を行い、調達の目的や目標を明確にしたうえで、取り組むことが必要になります。また、各プロセスのスケジュール管理や進捗管理を行い、プロジェクトに課題がないかの把握を行うことが必要になります。

具体的な要求事項を明確にする工程では、次の用語集や記事を参考にしてくだい。

要求定義

「 IPA非機能要求グレード」を基に、非機能要求の効果的な検討と管理のプロセスを解説!

2-3. その他システム調達におけるポイント

その他のシステム調達におけるポイントを説明します。

こうしたポイントを考慮することで、求めているシステム調達が実現できる可能性が高まります。ただし、すべての自治体が該当するわけではなく、自治体の状況や優先順位に応じて適切な調達計画と実施を行うことが必要となります。
なお、行政のデジタル化を含む自治体DXの進め方や、実際の調達に関する参考資料としては、総務省の「自治体DX推進計画」やデジタル庁の「デジタル社会推進標準ガイドライン群」があります。
特に、調達に関しては、「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン」を参考にしていただくことを推奨いたします。本資料は主に政府情報システムの整備や管理に関するものになりますが、自治体でも参考にできる部分が多くあります。

参考URL:https://www.digital.go.jp/resources/standard_guidelines(デジタル社会推進標準ガイドライン,デジタル庁)

3. システム調達のプロセス~計画から実施まで~

前章ではシステム調達のスケジュールとプロセスの概要について説明しました。本章では、システム調達のプロセスの中で、計画から調達実施までのプロセスについて詳しく説明していきます。

3-1. 現状把握とニーズの特定

システム調達ではいきなり見積書を依頼したり、調達仕様書などを準備したりするのではなくは、現状の業務フローやシステムの課題を把握し、具体的なニーズを特定することから始めます。
自治体においては、情報システム部門がすべてのシステムを管理している場合や担当部署がシステムを管理している場合など、状況は様々ですので、まずはどの部署のどの職員が担当で、誰が関係しているのかの把握を行います。
そのうえで、現状把握とニーズの特定作業を丁寧に行い、正確な課題認識やステークホルダーとの合意形成を図ります。
上記の動きを行うことで、プロジェクトを円滑に進められることが期待できます。

3-2. 調達計画の策定

現状把握とニーズの特定を踏まえて、調達計画を策定します。計画には導入の目的、目標、スケジュール、予算見積もりが含まれますが、特に導入の目的、目標をしっかり決めることが重要となります。
システム調達を行う際に、主要な項目を計画に含んで策定することで、プロジェクトの方向性が明確化されることや、予算とリソースが最適化され、無駄なコストや作業を削減することが期待できます。
また、システム調達の予定を部門横断的に集約し、更新や改修が必要なシステムの洗い出し、関係者や優先順位付けを行い台帳として管理を行うと負担軽減につながります。

3-3. 市場調査とRFI(情報提供依頼)

市場調査を行い、最新技術動向や市場の製品・サービスの情報を収集します。RFI(情報提供依頼)を実施し、ベンダからの情報を基に、より具体的な調達計画を作成します。
市場調査やRFIを行うことで、最適な技術の選定や導入後のリスクの軽減を図ることができたり、公正な競争環境を作り出すことができたりすることを期待できます。

なお、RFIについてはこちらの用語集や記事を参考にしてください。

RFI

RFI(情報提供依頼書)とは?目的やメリット、RFPとの違いを分かりやすく解説!(目次サンプルあり)

3-4. 予算要求と承認

自治体の業務は議会で承認を受けた予算によって遂行していくことが基本となるため、期待しているシステム導入や刷新を達成するためには、想定している経費の予算確保が重要となります。想定経費分の予算が確保できない場合、計画の遅れや変更などが必要となり、職員への負担が増えてしまう恐れがあります。そのために、しっかりと計画を策定し、見積の根拠やシステム導入・刷新の必要性を十分に説明できるよう取り組むことが必要になります。

3-5. 調達仕様書の作成

調達仕様書が曖昧な場合、関係者間での認識齟齬やトラブル等が発生するだけでなく、想定していた結果にならない可能性が高まります。そのため、調達仕様書は、システム調達において重要な文書となりますので、明確な要求事項、詳細な技術仕様や品質基準の設定等を、できる限り調達仕様書に記載して作成する必要があります。その際に国の資料を参考にひな形を作成しておくと、調達仕様書作成に係る職員の負担が軽減されます。

3-6. 入札公告と事業者選定

入札公告と事業者選定は、提案内容だけでなく、価格や実績などを含めて総合的に評価したうえで事業者を決定します。適切な入札公告を行うことで公正な競争と最適な事業者の確保ができ、複数の事業者の中から自組織に最適な提案の選定が可能になります。また、実績のある事業者を選定することで信頼性の高いシステム導入が期待できます。このようなことから、これらはシステム調達の成功に直結する重要な工程となります。

システム調達の計画から調達実施までの各ステップについて、3-1から3-6までで説明してきたましたが、これらの各ステップの内容を理解し、計画的かつ適切にシステム調達を進めていくことが重要となります。

4. システム調達のプロセス~調達後の管理と評価~

事業者選定まで行って調達が完了するわけではありません。事業者の選定を行ったら契約を行い、実際に作業してもらうこととなります。そして、システム導入後にはシステムの評価を行い、改善を図っていくというようにPDCAを回していくことが必要となります。本章では、調達後の契約以降のプロセスについて説明していきます。

4-1. 契約・プロジェクトの管理

総合的な評価を行い、業者を選定したあとは契約手続きとなります。契約条件の認識合わせを行い、契約手続きを円滑に行うことは、その後のプロジェクトを進めていくために重要です。
また、プロポーザルや総合評価では、業者の提案内容をもとに時間をかけて要件定義を実施します。このプロセスを通じて、具体的な仕様を確定し、双方の認識を一致させることができます。
システム導入・刷新を期待通りのものとするために、要件定義を事業者任せにするだけでなく、プロジェクト進行中はリスク管理や進捗管理を行い、主体的に関与してプロジェクトを円滑に進めるよう努める必要があります。
適切な契約締結とプロジェクト管理を行うことで、明確な責任分担の下でのトラブル発生時の対応を行うことができ、プロジェクト進行中の適切な修正が可能となる、品質の確保されたシステムが完成する、等のメリットを期待できます。

4-2. 導入後の評価と改善

システム調達では、導入が完了したら終わり、刷新が完了したら終わりというわけではありません。必ず導入や刷新後の評価と改善を行う必要があります。導入したシステムが政策目標にどれだけ貢献しているかを評価する政策評価や、システム導入が計画通りに実施され成果が期待通りに達成されているかを評価する事業評価等と関連づけて評価と改善を行うことで、システムの効果を最大化し、今後のプロジェクトに役立つフィードバックを得ることや行政サービスの改善につなげることが期待できます。

4-3. 調達プロセスの継続的改善

導入や刷新後の評価と改善だけでなく、システム調達プロセス自体も評価し、改善点を可視化し、次回以降の調達に反映させることが重要です。
調達プロセスを継続的に改善することで、プロセスが最適化されていき、調達業務に係る職員の負荷やコストの無駄を削減し、調達のスピードや品質の向上が期待できます。また、改善を繰り返す中で、組織として調達プロセスのナレッジが蓄積され、人事異動で担当者が変更になった場合でも、円滑に調達業務を遂行することが期待できます。

5. まとめ

本記事では、地方自治体のシステム調達に関する基本的な概念から具体的な実施方法、そして調達後の管理と評価までを包括的に解説しました。その中で、地方自治体(発注者)側が主体的に関与し、現状把握や計画策定、要求事項の明確化などの準備を適切に行うことで、期待通りの成果を得ることが可能になるということがおわかりいただけたでしょうか。
システム調達の業務は簡単ではありませんが、職員の業務効率化と住民サービスの向上等の目標を実現するためには、計画的かつ効果的なシステム調達が必要です。そのために、個人の能力や努力に頼るだけでなく、組織として重要な業務であるという共通認識のもとで取り組み、改善を繰り返す中でナレッジを蓄積し成功率を上げていく必要があるのではないでしょうか。

IT調達ナビの運営会社である株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジー(GPTech)は、システム導入における、「システム発注側」の支援に特化したコンサルティングファームです。
システム導入・刷新に向けて、進め方や体制等でお困りの場合は、ぜひ一度弊社までご相談ください。
お問い合わせは下記からお願いいたします。

この記事の編集者

銭場 啓太

銭場 啓太

大学卒業後、東京都特別区職員として13年勤務。ケースワーカー、徴税吏員を歴任後、滞納管理システム担当を2年、情報システム部門に5年従事。業務システム運用の他、グループウェアの刷新、自治体システム標準化やガバメントクラウド移行を担当する。業務の中で、発注者側の強化の必要性を感じ、発注者を支援していきたいという思いから(株)グローバル・パートナーズ・テクノロジーに中途入社。主に公共部門の業務支援に従事しつつ、IT調達ナビでシステム発注に役立つ記事を展開するメディア運営業務にも携わる。

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