
システム要件とは?失敗しないシステム発注のために知っておくべき基礎知識
システム要件とは、システム開発における要件定義のフェーズで定義されるもので、特定の業務要件を達成するためにシステムに求める要件のことを指します。
システムが具体的に何を達成すべきで、どのように動作すべきかを明確にする基準となるのがシステム要件です。
定義されたシステム要件は、その後の設計や実装、テストの各フェーズで基準として用いられます。
機能要件と非機能要件の両方が適切に満たされたシステムを利用して、システムの利用者が自身の業務を適切に行うことができてはじめて、利用者のニーズを満たすことができます。
特に非機能要件は見落とされがちですが、ユーザー満足度や運用効率に大きく影響します。
なお、システム要件は、システム開発会社が一方的に決定するものではありません。
これは、システム開発会社と、システムを利用する発注者側が協力して作り上げる共同作業となります。
それぞれの役割には、下記のようなものがあります。
- 発注者側の役割
・システム導入の目的やビジネスゴールを明確にする
・日々の業務に必要な機能や、実現したい業務改善の内容を具体化する
・どのような使い勝手や性能が求められるのかを開発会社に共有する - 開発会社の役割
・発注者の要望を正確に理解し、実現可能なシステム要件に落とし込む
・技術的な視点から、最適な構成・アーキテクチャを提案する
・コスト・スケジュールなどの制約を踏まえて、実現性のある要件を調整する
システム開発を成功させるには、発注者と開発会社の密なコミュニケーションと相互理解が不可欠です。
業務要件からシステム要件へと段階的に落とし込むプロセスを丁寧に行うことで、ユーザーの業務に適した、満足度の高いシステムを構築することができます。
目次
よくある質問
不十分な要件定義がプロジェクト失敗に与える影響はどのようなものですか?
不十分な要件定義はプロジェクトの失敗要因として極めて重大であり、品質低下、コスト超過、納期遅延といった多岐にわたる深刻な影響をもたらします。
具体的な影響
1. 仕様の誤解・認識齟齬の発生
要件が曖昧または不完全なため、発注者とベンダー間で認識のズレが生じ、期待する機能や性能が実現されない恐れがあります。
2. 設計・開発の手戻り増加
不明確な要件は後工程での変更や修正を誘発し、設計や開発のやり直しが多発、工数とコストの増大につながります。
3. 品質低下と不具合の増加
要件が十分に定義されていないため、テストケースが不十分となり、不具合検出が遅れることで品質が損なわれるリスクが高まります。
4. 納期遅延のリスク拡大
要件の不備による追加作業や調整が発生し、全体スケジュールに大きな遅れが生じる可能性があります。
5. 関係者間の信頼関係悪化
期待と実態のギャップがトラブルを引き起こし、発注者・ベンダー双方の信頼関係を損なうリスクがあります。
要件定義の段階で十分な検討と合意形成を行わないことは、プロジェクト成功の大きな妨げとなるため、発注者はこの段階に最大限の注意を払う必要があります。
発注者側の要件変更が頻発した場合、どのようなリスクが生じますか?対応策は?
発注者側の要件変更が頻発すると、プロジェクトの進行に深刻なリスクをもたらし、納期遅延やコスト増大、品質低下などが懸念されます。これに対しては、変更管理体制の確立と関係者間の合意形成が不可欠です。
頻発する要件変更による主なリスク
1. スケジュールの遅延
変更に伴う設計・開発の手戻りが増加し、全体の工程に遅れが生じやすくなります。
2. コストの増加
追加作業や調整対応が発生し、予算超過の原因となります。
3. 品質の低下
変更対応が不十分だとテストケースの見直しが不完全となり、不具合の発生や品質低下に繋がります。
4. プロジェクト関係者の混乱
変更頻度の高さがコミュニケーションの混乱や役割分担の不明確化を招き、チームのパフォーマンスが低下する恐れがあります。
対応策
1.変更管理プロセスの整備
変更申請から承認、影響分析、実施までのフローを明確にし、関係者の合意のもとで変更を管理します。
2. 影響範囲の評価と情報共有
変更がスケジュール、コスト、品質に与える影響を定量的に評価し、関係者に透明性を持って共有することが重要です。
3. 優先順位の明確化
変更の重要度や緊急度を見極め、リソース配分や実施時期を調整します。
4. 変更内容のドキュメント化
すべての変更内容と合意事項を文書化し、プロジェクト全体で共通認識を保持します。
発注者は要件変更の頻度を抑えつつ、やむを得ない変更には厳格な管理体制で対応することで、プロジェクトの円滑な進行と品質確保を図ることが求められます。
ベンダーとの要件すり合わせでトラブルを避けるために注意すべきポイントは何ですか?
ベンダーとの要件すり合わせにおいてトラブルを避けるためには、双方の認識を明確にし、合意形成を丁寧に進めることが不可欠です。
注意すべきポイント
1. 要件の具体化と文書化
要件は曖昧な表現を避け、具体的かつ詳細に文書化し、双方が同じ理解を持つようにします。
2. 定期的かつ双方向のコミュニケーション
定期的な打ち合わせを設け、疑問点や変更点は速やかに共有し、双方の意見交換を密に行うことが重要です。
3. 期待値の調整
発注者の要望とベンダーの技術的・業務的制約を踏まえ、実現可能な範囲で合意を形成します。
4. 要件変更時の手順明確化
変更が発生した際の申請・承認・反映方法を事前に取り決め、混乱を防ぎます。
5. 議事録や合意書の作成と管理
重要な合意事項は議事録や契約書に明記し、関係者全員で共有・保管することで認識齟齬を防止します。
6. 専門知識の活用
発注者側に要件理解が難しい場合は、専門家や第三者の助言を活用し、正確なすり合わせを支援します。
これらのポイントを踏まえた慎重な要件すり合わせを行うことで、ベンダーとの信頼関係を構築し、プロジェクトの円滑な推進につなげることが可能です。
システム要件が実現可能かどうかを見極めるために発注者が確認すべき事項は?
システム要件の実現可能性を見極めるためには、技術的制約、業務要件との整合性、リソース・スケジュールの適合性など複数の視点から総合的に確認することが必要です。
発注者が確認すべき主な事項
1. 技術的実現性の評価
要件を満たすための技術やインフラが現状または導入可能な範囲で対応可能かを確認します。ベンダーの技術力や過去実績も参考にすべきです。
2. 業務要件との整合性
システムが現行業務や業務プロセスと適切に連携し、業務目的を達成できるかを検討します。
3. コストと予算の妥当性
要件実現に必要な費用が予算内であるか、コストパフォーマンスが適切かを評価します。
4. スケジュールの現実性
要件実現に必要な期間がプロジェクト全体のスケジュールに適合しているかを確認し、リスクを見込んだ余裕も考慮します。
5. リスクと制約の把握
法規制やセキュリティ要件、既存システムとの互換性など、要件実現に影響を及ぼす制約事項の有無を確認します。
6. 利害関係者間の合意
関係部署やユーザーが要件に納得し、実現可能であるという合意が得られているかも重要です。
これらの確認を通じて、発注者は要件の現実的な実現可能性を評価し、適切な意思決定とリスク管理を行うことが求められます。
要件定義の段階で見落とされやすい重要事項にはどのようなものがありますか?
要件定義においては、機能面だけでなく非機能要件や運用面、リスク管理など、多角的な視点で検討しなければ見落とされがちな重要事項が存在します。
見落とされやすい主な重要事項
1. 非機能要件の具体化
性能、可用性、拡張性、セキュリティ、運用性などの非機能要件が不十分であると、システム稼働後のトラブルや運用コスト増大の原因となります。
2. 業務プロセスとの整合性
現行業務の詳細や例外処理、特異ケースの取り扱いが不明確なままだと、実際の業務に合わないシステム設計となる恐れがあります。
3. ユーザー要望の網羅性
利用者層全体のニーズや操作性、アクセシビリティの配慮が不足すると、受け入れ時の抵抗や利用低迷を招きます。
4. リスクと制約の明確化
法令遵守、セキュリティ要件、既存システムとの連携制約、予算・スケジュールの制約などが抜け落ちることがあります。
5. 変更管理ルールの不備
要件変更時の対応方針やフローが未整備だと、後工程での混乱やコスト増加につながります。
これらの事項を見落とさず、発注者が関係者と十分に協議し、要件定義書に反映させることがプロジェクト成功の鍵となります。
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