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【ポストモダンERP】DX推進のための新しいIT導入のあり方を解説!

近年、あらゆる産業で、デジタル技術を活用したビジネス変革、通称DXが求められています。
一方、大企業を中心として進められてきたかつてのIT導入では、DX推進の足かせになってしまうことが問題視されています。その解決策の一つとして、クラウドサービスが注目されています。

クラウドサービスは導入が比較的容易であるため、中小~中堅企業でもクラウドサービスを活用したIT導入が進められています。
しかし、十分な知見なくただクラウドサービスなどを導入するだけでは、DX推進はおろか、かつてのIT導入の課題を再発してしまう危険があります。

本記事では、かつてのIT導入の課題の再発を回避して最適なDX推進を実現できる、クラウド時代の新たなIT導入のあり方を解説します。

 

1. 非クラウド時代のIT導入の課題

近年、インターネット上でサービスを提供する「クラウドサービス」が普及してきています。

このクラウド時代においては、導入が比較的容易で最新技術を利用できるクラウドサービスが、激しく変化するビジネス環境に適応するためのデジタル技術として重要視されています。

一方、クラウドサービス普及前である 非クラウド時代 には、大規模なIT投資が可能な大企業を中心としてIT導入が進められていました。
IT技術の発展が目覚ましい現代においては、非クラウド時代に導入した古いシステムが、事業変革の足かせになってしまうことが問題提起されています。

 

クラウドサービスなどの活用によって中小~中堅企業でもIT導入がしやすくなってきている昨今ですが、非クラウド時代に大企業が経験したIT導入を繰り返さないようにしなければなりません。

本章では、非クラウド時代におけるIT導入について、「個別分散システム」「全社統合システム」に分類し、発生していた課題、そして現在も続いている課題について解説します。

 

1-1. 個別分散システム

企業でのコンピュータ利用が普及してきた当時、以下の図のように、業務ごとに個別にシステムが導入されていました。
個別に分散的に導入されていることから、本記事では「個別分散システム」と呼びます。

 

図1 個別分散システムとその課題

 

この個別分散システムは、システムやデータが独立しているため、「データの重複入力」「データ分析が困難」といった課題が発生します。

  • データの重複入力
    システムが独立している、あるいはシステム間の連携が複雑であるため、共通で利用するデータを複数のシステムで入力する必要があります。
    (例えば、「人事業務」のシステムで管理する給与情報を「会計業務」のシステムで入力するなど)
    入力者の工数増加になる上、入力ミスに繋がる可能性もあります。
  • データ分析が困難
    データが各システムに分散するため、データ分析が困難になります。
    データ分析ができないということは、データという明確な根拠を元にした課題解決や意思決定ができないということに繋がります。

 

上記のような、無駄な工数増加や意思決定の鈍化により、全体最適意識の欠如した個別分散システムでは業務効率化の効果が出ないという問題が発生しました。

これらの課題を解決するIT導入の形として、次の全社統合システムが構築されていきました。

 

1-2. 全社統合システム

時代が進み、IT技術の進化や「ERP」という考え方が広まったことに伴い、個別分散していた複数のシステムを1つのシステムに統合する「全社統合システム」が構築されていきました。

ERPとは、「経営情報を一元管理することで、業務効率化や経営の全体最適を目指す考え方、及びシステム」のことです。
当時、企業の業務全体を1つのシステムでカバーするERPパッケージを利用した、以下の図のような「全社統合システム」の導入が進行しました。

全社統合システムは、データの一元管理によって個別分散システムの課題を解決することができる一方で、「改修が困難」「システム業者依存」「高コスト」といった課題が存在します。

  • 改修が困難
    システム全体の機能が密接に関連しているため、特定の機能を改修しようとすると、別の機能に影響するリスクが増加します。そのため、機能ごとに改修して最適化することが難しくなります。
  • システム業者依存
    大規模なシステムであるため、自社でシステム全体を運用、管理できず、業者に依存せざるを得ない状況になってしまうことがあります。
    業者依存が進むと、業者が提供する技術や製品に固定されてしまい、他社のサービスを連携できないなどの問題が発生しやすくなります。
  • 高コスト
    大規模で高機能なシステムである分、導入までの工数や費用が大きくなるだけでなく、導入後の運用、保守コストも増大します。

 

全社統合システムは上記の課題のために簡単に刷新することができずに古いシステムとして残り続け、現在でも、事業変化の足かせとなっていることが問題視されています。

以上のように、「個別分散システム」「全社統合システム」という非クラウド時代のIT導入では、現代のビジネス変化に適応できず、デジタル競争に負けてしまうことが懸念されています。

クラウド時代において、同様のIT導入を繰り返さないようにしなければなりません。

 

2. クラウド時代に直面しているIT導入の課題

前章では、非クラウド時代のIT導入には課題が多く、DX推進の足かせとなっていることを解説しました。
この問題の解決策の1つとして、クラウドサービスの活用が期待されています。

クラウドサービスのメリットとして、自社での「ITインフラ(サーバ)」の管理から解放されること、導入までの工数や費用を比較的抑えやすいこと、自社で開発することなく最新技術を利用できることといったメリットがあリます。

特に、非クラウド時代にはIT導入が難しかった中小~中堅企業において、上記のようなメリットを持つクラウドサービスを積極的に採用するケースが増加しています。

 

一方、個別業務領域ごとにクラウドサービスの導入判断をする場合も多いため、サービスが自社で利用している他システムとの連携に対応していない、あるいは連携が複雑化する可能性があります。

連携ができないまま複数のクラウドサービスを入れた場合、それぞれの機能、データが独立した「個別分散システム」と同様のシステム構成となってしまいます。

個別分散システムは、データの重複入力やデータ分析が困難という課題があり、無駄な工数増加や意思決定の鈍化により、激しく変化するビジネス環境に適応できないと前章で説明しました。

特に中小~中堅企業において、低コストで最新技術を活用できると考えてクラウドサービスをつぎはぎで導入した結果、個別分散システムというかつて大企業が直面した課題と同じ轍を踏んでしまうことが顕在化しています。

 

具体的に、クラウドサービスをつぎはぎで導入したときに生じる課題例を紹介します。

  • 導入後の運用を考慮できず、膨れ上がった運用負荷に耐えられない
    クラウドサービス導入の際、経営層や事業部門はサービスの機能や効果にばかり注目し、導入後に実施しなければならないシステムの設定や管理などの運用部分を考慮しない場合が往々にして存在します。結果として導入後に運用負荷が高いことが顕在化し、その負荷に耐えられずサービスを十分活用できない、という状況が発生します。
    例えば、システムを利用するにはユーザ認証情報(名前やパスワードなど)を設定する必要がありますが、当初は事業部門内で運用をするつもりであっても徐々に運用負荷に耐えられなくなり、運用開始後になってから情報システム部門に運用支援を要請するようなことが起きます。この状況が複数のシステムで発生すると、ユーザ情報の設定方法も設定ルールも異なる複数のシステムを情報システム部門が一手に運用するようなことはできず、運用がままならなくなるという状況が発生します。
    加えて、ユーザ認証情報をシステム毎に設定することは、システムの利用者にとっても、システムごとにパスワードなどを入力するということになるため、利用者の負荷も高くなってしまいます。

 

  • 各クラウドサービスで利用するコードが統一化されず、システム横断的なデータ分析ができない
    システムで扱うデータは、文字や数字などの「コード」を使用して、対象が一意に特定できるよう工夫されます。
    例えば、「社員コード」として「001 山田 太郎」「002 山田 花子」のように割り当てるなどです。
    このとき、個別分散しているクラウドサービスごとで社員コード「001」「002」に対応する社員が異なると、システム全体では同一の社員コードで社員を識別できず、システム横断的な社員データの分析などができなくなってしまいます。
    また、クラウドサービスの場合は、コード体系がサービスごとに予め指定されるケースも多いため、コード体系を共通化しようとしても共通化できない、という課題も生じます。

 

貴社において、上記と同様の状況が発生している、発生の兆候がある場合は、各システムの土台となる「IT共通基盤」の整備が不足していることを意味します。

IT共通基盤とは、あらゆる業務システムの共通の土台のことです。
具体的には、以下のような要素が含まれます。

  • ITインフラ:全体のシステムに関わる物理的/非物理的な設備(サーバやネットワークなど)
  • セキュリティ基盤:システムやデータを保護する手段
  • インフラ運用/管理基盤:ITインフラ全体を運用管理するツール・ルール・体制など
  • ユーザ認証基盤:利用者の本人確認の仕組みなどを全社統合で管理する認証の仕組み
  • マスタ管理基盤:マスタ(業務の基本データ)を全社統合で管理する仕組み
  • データ連携基盤:複数のシステム間でデータをやり取りできるように、データを収集・加工する仕組み

 

 

先述した例のうち、「導入後に運用負荷が膨れ上がる問題」は「インフラ運用/管理基盤」の整備不足に起因します。
同様に、「ユーザ認証情報の重複入力」は「ユーザ認証基盤」の整備不足、「システム横断的なデータ分析ができない問題」は「マスタ管理基盤」や「データ連携基盤」の整備不足に起因します。

 

クラウドサービスを利用する場合、サーバの管理はサービスの提供者が実施するため、IT共通基盤のうち「ITインフラ(サーバ)」の整備からは解放されます。

しかし、IT共通基盤全体を整備しないことには、先述の例で示したような問題は発生してしまうため、クラウドサービスを導入する場合でもITインフラ以外のIT共通基盤は引き続き整備する必要があります。

 

3. クラウド時代における最適なIT導入のあり方

現在のIT導入では、IT共通基盤を考慮せず、安易にクラウドサービスを導入していることで、個別分散システムの状態に回帰する懸念があると説明しました。

では、クラウドサービスをつぎはぎで導入する個別分散システムの状態を回避・解決するにはどのようにIT導入を進めればよいのでしょうか。

非クラウド時代には、全てを1つのシステムで完結させる全社統合システムの導入により、個別分散システムの課題を回避しようとしていました。
しかし、全社統合システムもDX推進の上では課題が多く、これを繰り返すことは避けねばなりません。

 

本章では、非クラウド時代のIT導入への回帰を避け、DX推進に適切なクラウド時代のIT導入のあり方としてポストモダンERPという考え方を解説します。

 

3-1. ポストモダンERPの紹介

ポストモダンERPは、カバーする業務領域を絞ったシンプルなERPを構築し、ERPで不足する機能をSaaSなどのクラウドサービスを連携させて実現する、“次世代型のERPのあり方”を指します。

具体的には、以下のように整理することができます。

  • ERPの機能は、業種による違いが少ない業務領域(販売管理、財務会計、給与計算など)に絞り込んだシンプルな構成にします。
    (これを「ERPのスリム化」と呼びます)
  • 業界特有の機能や不足する機能は、SaaSなどで提供されるクラウドサービスを組み合わせ、ERPと「疎結合」で連携することで実現します。
    (疎結合:システム同士の連携の影響を最小限とする連携方式)
  • ERPの統合データベース構造や、共通のデータ連携基盤を利用することで、全体のデータの整合性を確保します。

 

 

3-2. ポストモダンERP実現によるメリット

ポストモダンERPは、本来ERP(全社統合システム)が持つメリットを保ちつつ、クラウドサービスにより柔軟かつ迅速にビジネス変化に対応することができるメリットがあります。

 

具体的には、「統合的なデータ管理」を実現しつつ、「ビジネス変化に合わせて個々のクラウドサービスを追加・変更する柔軟性」を実現できます。

  • 統合的なデータ管理
    共通のデータ基盤を土台とするため、データを統合的に管理できます。
    これにより、企業間、部門間での横断的な情報共有が可能になり、定量的な分析に基づいた経営戦略を立案しやすくなるため、より迅速で合理的な意思決定が可能になります。
  • 個々のクラウドサービスを追加・変更する柔軟性
    ポストモダンERPはシステム同士がお互いの影響を最小限とする「疎結合」で連携されるため、新しいクラウドサービスの導入が比較的容易に実現できます。
    多くの場合、クラウドサービスでは提供会社が開発する最新の機能を使用できるため、最新技術を採用するハードルを下げることができます。

 

上記のようなポストモダンERPのメリットによって、自社の事業変革に柔軟かつ迅速にシステムを適応させ、DXを推進できるようになります。

 

4. ポストモダンERP実現に向けた重要ポイント

「2. 現在直面しているIT導入の課題」の章で、各システムの土台となる「IT共通基盤」を整備することが、クラウドサービスを導入する場合に重要であることを説明しました。
ポストモダンERPでも、複数のクラウドサービスを連携するため、IT共通基盤を整備することが非常に重要です。

IT共通基盤の整備によるポストモダンERPの適切な実現において、経営層、システム部門のそれぞれが注意すべき非常に重要なポイントを以下で解説します。

 

4-1.経営層が果たすべき役割

経営層は、これまで説明してきたように、目に見える業務システムの機能だけに着目して導入を安易に進めるのではなく、その土台となるIT共通基盤の整備・運用することが、ポストモダンERPの実現の上でも非常に重要であることを認識する必要があります。

実際にIT共通基盤を整備するのは、多くの場合システム部門が担当することになりますが、システム部門の業務がPC保守や社内ヘルプデスクなどの「受け身」業務に手一杯で、IT共通基盤の整備まで手が回っていないということも往々にして発生しています。

このような場合に、システム部門をおなざりにして事業部門主導でクラウドサービス導入を進めさせてしまうと、必ず前述のような問題が発生します。

 

そのため、経営層は自社のシステム部門がIT共通基盤の整備やポストモダンERPの実現に取り組めるよう、以下のような支援・指導を実施することが重要です。

  • システム部門の負荷低減
    システム部門が手一杯になりがちなヘルプデスクなどの「受け身業務」は、アウトソーシングなどによって負荷低減することができます。
    システム部門が十分にIT共通基盤の整備などに取り組めるよう、マンパワーの調整を実施することが重要です。
  • ポストモダンERP実現の全社的な方針策定
    ERP導入では、全社的に多くの部門がプロジェクトに関与することになります。その際、ユーザ部門である各業務部門の発言力が高まりがちです。
    しかし、ポストモダンERPを実現する上では、システム部門が各業務部門のハブとなり、IT共通基盤を整備・運用する重要な役割を担う必要があることを、システム部門はもとより、関連する業務部門に対しても明示的に示していくことが重要です。システム部門によるIT共通基盤の整備・運用なくして、効果的なIT導入は見込むことはできません。

 

4-2.システム部門が果たすべき役割

システム部門においては、自部門がIT共通基盤の整備、運用に取り組むことが非常に重要であることを認識する必要があります。


以下を実施することで、適切な形でポストモダンERPを実現し、DXを推進することができます。

  • 経営層、事業部門に対するIT共通基盤の重要性の説明
    一般的に、経営層や事業部門が意識するのは、個別の業務システムのみです。
    以下の図(システム部門の業務)でいうと、経営層や現場により近い「収益貢献(Step 3)」領域の強化をいきなり求めてしまいます。一方、これまでに説明したように、IT共通基盤が不十分なままでは、業務システムをクラウドサービスで導入しても上手くいきません。
    昨今のクラウドファーストの考え方から、クラウドサービスを導入したいと彼らから安易に提案を受けた際などには、ただ導入を手伝うだけではなく、IT共通基盤の整備、運用などの「統制強化(Step 2)」に取り組むべきであるということを明確に共有しなければなりません。

 

  • IT共通基盤の整備、運用の実施
    経営層などにIT共通基盤の重要性を理解してもらった上で、自部門でIT共通基盤の整備、運用を実施していくことが重要です。
    もし、自部門の業務が以上の図のPC保守や社内ヘルプデスクなどの「受け身」業務に手一杯で、IT共通基盤の整備などの「統制強化」に取り組めていない場合は、現在の業務のクラウドサービスやアウトソーシング等によって負荷を調整することも必要です。(Step 1)
    受け身業務から脱却し、IT共通基盤の整備、運用といった「統制強化(Step 2)」をしっかり遂行することで、経営層や事業部門が求める「収益貢献(Step 3)」を効果的に実現することができるようになります。
    この取り組みを通じて、システム部門は全社的に影響力のある、自社のDXに欠かせない部門として活躍することができます。

 

5. まとめ

ポストモダンERPは、DX推進の流れの中で非常に注目されている一方で、単に個々の業務要件にマッチしたクラウドサービスを導入するだけでは実現できません。
経営層、システム部門が、IT共通基盤の重要性を認識し、その整備と運用を進めてこそ、最適なDXを実現できます。

IT共通基盤を整備してポストモダンERPを実現できれば、最先端の技術を活用しつつ、ビジネスの変化に柔軟に適応することができます。自社の業務改善や競争力向上のため、ポストモダンERPの実現を追求してみてはいかがでしょうか。

 

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この記事の編集者

武田 祥太郎

武田 祥太郎

IT調達ナビの運営会社である、(株)グローバル・パートナーズ・テクノロジーに新卒入社。 ITコンサルティング業務に従事しつつ、IT調達ナビでシステム発注に役立つ記事を展開するというメディア運営業務にも携わる。

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