GIGAスクール構想の実態とは?第2期に向けて土台となる「ネットワークアセスメント」の重要性やポイントを解説!
目次
はじめに
すべての児童・生徒に1人1台の端末を配布し、個別最適化された学びを実現するため、令和元年12月に文部科学省からGIGAスクール構想が示されました。
令和2年度末までに約98%の自治体がネットワーク環境と端末環境の整備を完了しています。整備が完了して4年目となる今年7月には、令和9年からは小学6年生と中学3年生を対象として毎年行われている「全国学力テスト」は紙での試験を廃止し、オンライン化する方針が示されています。
しかし、2023年にオンラインで実施された中学英語のテストでは「生徒の12%余りに正常に回答を送れないというトラブルが相次ぐ」という事案が発生し、ネットワーク環境の不十分さが露呈しています。
このような環境の不十分さによって、多くの学校現場で教職員の対応が必要になるなど、現場の業務負担の増加にも繋がっています(「全国学力テスト」27年度から全面的にオンライン化へ 文科省」(NHK), 「学力テスト、全面オンライン化へ 文科省方針、27年度から」(共同通信社))。
本記事では、GIGAスクール構想によって整備された環境の実態も踏まえ、ネットワークアセスメントの重要性について解説していきます。今後、4回に渡って以下の内容について解説していきますので、興味のある方はぜひ参考にしてください。
第1回:GIGAスクール構想の実態とネットワークアセスメントの重要性やポイント
第2回:GIGAスクール構想第2期 ネットワーク環境再構築の注意点
第3回:GIGAスクール構想環境の一元管理によるコスト削減と効率化
第4回:校務DX環境整備(GIGAスクール構想環境と校務環境の統合)
1. GIGAスクール構想とは
GIGAスクール構想は、文部科学省が令和元年12月に打ち出した政策で「教育のデジタル化を推進し、すべての児童生徒に公平な学習機会を提供することを目指す取り組み」です。
具体的には、すべての児童生徒に1人1台の端末を配布し、ICT環境を整備することで、デジタル格差の解消と個別最適化学習を推進します。また、プログラミングや情報リテラシーなど、ICTスキルの習得を支援することで、教育の質向上を目的としています。
2. GIGAスクール構想の重要性
GIGAスクール構想の重要性は以下の点にあります。
- デジタル格差の解消:家庭の経済状況に関わらず、平等に学習できる環境の提供
- 個別最適化学習の推進:児童生徒一人ひとりの学習進度や理解度に応じた指導
- ICTスキルの習得:プログラミングや情報リテラシーなど、現代社会で必要とされるスキル習得
- 教育の質の向上:教師がデジタル教材を活用することによる授業の質の向上
これらの点から、GIGAスクール構想は日本の未来の教育を支える重要な取り組みといえます。
3. GIGAスクール構想の現状
GIGAスクール構想第1期によって、ネットワークや端末の環境は整備されましたが、文部科学省は令和6年4月24日に学校のネットワークの現状について、推奨帯域を満たす学校は2割程度と発表しています。
つまり、ネットワーク環境改善については、全国の約8割の教育委員会の課題となっているというのが現状です。その他、端末の管理やアカウント管理などの課題も含めると、教育委員会担当者や学校の教職員の方々の負担は相当なものになっていると想像されます。
また「整備した環境に不備があり活用できない学校」と「適切な環境を整備し活用できる学校」では、児童生徒の教育環境に大きな差が生まれます。すでに、令和3年からこれまでの3年半の間で、学校間でも大きな格差が生まれてしまっています。
GIGAスクール構想第2期でも同様の事案が起きた場合、教育の格差は更に拡大してしまうことが懸念されます。そのため、GIGAスクール構想第2期に向けて、GIGA端末の活用状況や課題などを正確に把握し、適切に対応する必要があります。
3-1. GIGAスクール構想環境整備の問題点
GIGAスクール構想環境整備第1期では、学校規模など様々な事項についての検討が不足したままネットワーク環境や端末環境が構築されていました。このようなことになった原因はいくつかありますが、主要なものは以下の3つであると考えています。
- 必ずしも当該自治体の環境に適合していない仕様書を作成したこと(ICTに関する知見の不足)
- 短期間での整備であったこと(令和元年12月から令和3年3月末までの1年3か月で整備)
- 標準仕様書にテスト仕様が不足していたこと
適切にICT環境を整備するためには、ネットワークやPC、ソフトウェアなどに関する専門的な知識が必要です。
しかし、教育委員会には必ずしも上記のような専門的知見が蓄積されているわけではなく、文部科学省から提示された標準仕様書を元に環境を整備したところが多かったと考えられます。
また、令和2年度末時点で全国の98%の教育委員会が文部科学省に「環境整備が完了した」と報告していますが、文部科学省からの報告では令和6年4月時点で通信環境の「推奨帯域」を満たす学校は2割程度でした。
短期間で環境を整備しなければならなかったこともあり、教育委員会の担当者は「環境整備を完了すること」が目的化してしまったことが推測できます。
つまり、「環境整備」までは完了していたものの、その整備した環境に対して「テスト(評価・改善)」を適切に実施できていなかったため、「学校で端末を活用できる環境」にならなかったことに繋がっています。
GIGAスクール構想第2期では、この問題点を解決しなければ、端末の活用(デジタル教科書、CBTなど)を推進することは不可能です。
端末を活用して成果を出すためには、「適切なICT環境」だけではなく「教職員・児童生徒のICTリテラシー」「保護者のICTに対する理解」など様々な要素が必要となります。
同様に、「端末を活用できる環境」にするためにも、「ネットワーク環境」だけではなく「端末環境」「ソフトウェア環境」なども適切に整備しテストを実施する必要があります。
成果を出すためには様々な取組みが必要ですが、本記事ではその中でも土台となる「ネットワーク環境」を改善するために重要なネットワークアセスメントについて説明します。
3-2. ネットワークアセスメントの必要性
現在、GIGAスクール構想で整備した環境で「端末が活用できない」という問題が発生しており、環境の改善が急務となっています。この問題の原因を特定するためには以下の3つについて確認が必要となります。
- ネットワーク環境(機器の性能、ネットワーク構成など)
- 端末環境(端末の性能、設定など)
- ソフトウェア環境(機能、設定など)
環境整備は、単に機器を導入すればよいというわけではなく、「導入後のネットワーク環境が適切に機能しているか」や「児童生徒・教職員が円滑に端末を利用できるか」を確認することが肝要です。
上記の1~3の中で、最初に確認しなければならないのはGIGAスクール構想の土台となる「1. ネットワーク環境」になります。
現状は、約8割の学校でネットワーク環境に問題があるという調査結果が出ており、この問題を解決するための最初のステップとして「ネットワークアセスメント」を実施する事が必要です。
もし、ここでネットワークアセスメントを実施せず、令和8年度末までにネットワーク環境の問題を解決できなかった場合、令和9年からCBTで実施される「全国学力テスト」を適切に実施することができない可能性は高いでしょう。
3-3. ネットワークアセスメントを早期に実施するメリット
ネットワークアセスメントを早期に実施するメリットは以下になります。
【一般的なメリット】
- ネットワークの現状把握と改善ができる
現在のネットワークの状態を詳細に把握し、帯域幅の不足や接続の不安定さなどの問題点を特定し、必要な改善策を早期に講じることができます。
【費用面のメリット】
- 令和6年度であればネットワークアセスメント費用の3分の1が補助される(令和5年度補正予算 ネットワークアセスメント実施促進事業補助対象事業費の上限1,000千円/校、補助金上限は333千円/校)
令和6年度にネットワークアセスメントを行うと、費用の節約だけでなく、令和7年度から令和8年度の2年間でネットワーク環境を再構築できます。アセスメントの結果を仕様書に反映させる時間を確保できるため、十分に検討された仕様書を基に再整備を行うことができます。
令和9年度以降は小学校調査、中学校調査ともにCBTで実施されることが決まっており、令和8年度末までにCBTを適切に実施できるよう学校の児童生徒全員が同時に端末を使用できるネットワーク環境を整えることが求められています。
そのため、このタイミングでネットワークアセスメントを実施されることをお勧めいたします。
4. ネットワークアセスメントを適切に実施するためには
ネットワークアセスメントは実施する事が目的ではありません。ネットワークアセスメントを実施し「どこに」「どのような」問題があるのかを正確に把握する事が目的です。
この部分を間違えてしまうと、ネットワークアセスメントの意味が無くなってしまうため、教育委員会の担当者は「何を調査する必要があるか」を理解しておく事が重要です。
そのため、「何が」「いつから」「どの端末で」「どの場所で」「どれくらい」発生しているのかを整理し問題点を明確にしておく必要があります。
次に、問題の原因を調査するために必要な内容を検討し、ネットワークアセスメント業務を委託するための仕様書を作成することになります。
- 発生している問題を正確に把握、整理する
- 問題の原因を調査するために必要な内容を検討する
- ネットワークアセスメント業務委託仕様書を作成する
業務を委託するためには仕様書を作成しなければなりませんが、仕様書に不備があると必要な調査が漏れてしまう可能性が高くなります。そして、その調査結果を元に環境を再構築してしまうと不具合が改善しないということに繋がります。
そのため、適切にネットワークアセスメントを実施するためには、適切な業務委託仕様書を作成する必要があります。
GIGAスクール構想第1期のネットワーク環境構築業者に確認しながら、仕様書を作成する事も一つの方法ですが、構築事業者に作成を依頼した場合、自社優位の仕様になってしまう恐れがあります。
よって、可能であればネットワークアセスメント実施事業者とネットワーク環境構築事業者が同一事業者とならないように入札制限をかけることが理想です。
ただし、「地域内にネットワーク構築事業者はいるが、ネットワークアセスメントのみを実施している事業体が見当たらない」ということもあるかと思います。
そのような場合、構築・保守事業者は迅速なサポートのために地域内に拠点を持つ事業者に委託することが望ましいのですが、ネットワークアセスメントの事業者については必ずしも地域内の企業を前提とする必要はありません。
加えて、ネットワークアセスメント事業者に中立性が求められる場合は、県下の複数自治体で共同しネットワークアセスメント業務を委託するようなことも効果的です。
ネットワークアセスメント実施内容や調達方法についてお困りのことがあれば、IT調達ナビを運営するGPTechまでお気軽にご相談ください。