
自治体DX推進担当者必見!AI・RPA導入の成功法則と注意すべき落とし穴
近年、自治体等の公共組織でもAIやRPAを活用する事例が多くなっています。
また、より先進的な技術である生成AIについても、公共組織での活用事例が見られるようになってきています。
その目的や対象となる業務は様々ですが、これらの新しい技術を活用する際に考慮すべき点や課題には共通するものも多くあります。
そして様々な事例を参考にすることで、それぞれの持つ特有の課題を見つけることができます。
本記事では、AIやRPAの基礎知識と自治体での活用における課題を整理し、今後、AI、生成AI やRPA等を活用しようと考える際に、組織として準備すべきことや活用の考え方等についてお伝えします。
目次
自治体DXとAI 、RPA
2025年3月に「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画4.0版」が総務省から発表され、その中で自治体 DX の重点取組事項として「自治体の AI・RPA の利用推進」が取り上げられています。
この「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」は2020年に第1版が発表され、重要取り組み事項については版を重ねる中でいくつかの変更がなされています。
その中でも「自治体の AI・RPA の利用推進」は、第1版から変更されずに重点取組事項として取り上げられています。
2024年に発表された3.0版からは「生成AI」についての記述が新たに追加され、4.0版においても継続して記述されています。
この中で、RPA 等の活用目的としては業務の効率化に主眼を置いており、主な留意点として以下の記載があります。
「自治体の定型的な業務の効率化については、業務プロセスの見直しや情報システムの標準化・共通化など、根本的な対応策を検討し、その上でRPAの利用による自動化を行うことが有効である」
これは、「RPAツールの導入そのものを目的とするものではない」ことを示唆しています。
RPAとは
では、まず、RPAの定義を確認しておきましょう。
RPAは「Robotic Process Automation」の略で、人間がパソコンで行う事務作業を、ソフトウェアを利用して自動化する技術のことを指します。
RPAでの重要なポイントは「人間がRPAに行わせる処理のシナリオとルールを決め、RPAに登録する必要がある」ということです。
つまり、シナリオとルールから外れた「例外処理」には対応できないということになります。
そのため、例外が発生しても検知できるような仕組みを構築するか、業務プロセスを標準化する必要があります。
また、業務プロセスに変更が発生した場合は、RPAに登録したシナリオやルールも変更しなければいけないということになります。
上記のような、シナリオとルール設定を前提としたRPAは「クラス1」と言われる方式で、自治体のDXでは、この方式での活用事例が多く見られます。
また、最近では、AIとの組み合わせで、シナリオを自動作成する「クラス2」のRPAや、自律的に意思決定までを行う「クラス3」のRPAも登場しています。
AI、生成AIとは
次に、AIと生成AIについて確認します。
「AI」は Artificial Intelligence の略称で、「人工知能」と訳されますが、確定した定義があるわけではありません。
それは、「知能」や「知識」という言葉自体が社会で明確に定義されていないことが一因だと言われます。
また、AIについての技術の進歩が激しいために、常に定義が変化するということにも起因しているようですが、以下のような分類がなされることがあります。
まず、AIの世代として、またはブームとして表現される分類です。
- 第1世代(1950年代) : 推論・探索の時代(コンピュータがゲームやパズルを解いたり、迷路のゴールへの行き方を示したりするという技術をさします。ただし、ルールとゴールが予め与えられる必要があります)「トイシステム的なAI」とも言われます。
- 第2世代(1980年代) : 知識の時代(エキスパートシステムのように専門家の知識をコンピュータに教え込むことで現実の複雑な問題を人工知能に解かせることを試みたシステムですが、例外処理や矛盾したルールに柔軟に対応することが出来ないという欠点がありました)「ルールベースのAI」とも言われます。
- 第3世代(2010年代) : 機械学習の時代(「機械学習」や「ディープラーニング」という技術でコンピュータ自らが学んでいくという手法です)「機械学習に基づくAI」と言われます。これが、現在のAIの基礎となっています。
- 第4世代(2022年以降) : 第3世代を超大規模化した「生成AI」です。また、今後の、より進化した生成AIをさすこともあります。なお、第3世代と第4世代の間に「生成AI」を位置付けて、第3.5世代と呼ぶこともありますが、ここでは、総務省の定義に従って、生成AI以降を第4世代としています。
また、AIが実際の業務において果たす機能には、従来、「識別(音声認識、文字認識等)」「予測(数値予測、マッチング、未来の事象を予測・解析する)」「実行(表現生成、デザイン、行動最適化、作業の自動化)」という大きく3種類があるとされており、それらをベースとし以下のような分類がされることもあります。
- 識別系AI:人間の目や耳のように、物や事象を認識するAI
- 予測系AI:過去のデータから未来を予測するAI
- 会話系AI:人間の言語で自然に会話するAI
- 実行系AI:物体の動きを制御するAI
- 生成系AI:文章・画像などのコンテンツを生成するAI
RPAとAIにより目指すべきこと
自治体がRPAとAI、生成AIを活用することにより目指すべきことは、以下二つがポイントになります。
具体例については次章で紹介しますが、「業務の効率化」と「住民サービスの向上」を目指すことが成功の要因になると考えます。
業務の効率化
RPA、AIを既に導入している自治体で経験され実証済みであるように、業務時間の短縮や業務量の削減というような定量的効果が期待できます。
また、それに加えて、書類の転記間違いのような手作業で発生しやすいミスを防ぐというような定性的な効果も認められています。
住民サービスの向上
住民が何らかの申請書を作成する際に、それを補助するというような役目をAIが担うことによって、申請者である住民の手間を省くことができたり、間違いを防ぐことができたりします。
また、それによって、処理時間を短縮することができ、住民の負担感を少なくすることができます。
つまり、住民サービスの向上についても、定量的効果と定性的効果の両方を期待することができるのです。
自治体における導入状況
総務省から2024年7月に出された報告書「自治体におけるAI・RPA活用促進」では、次のような数値が報告されています。
これは、地⽅公共団体におけるAI・RPAの導⼊の進捗状況を把握するために行われた1,788の都道府県・市区町村に対するアンケート調査をもとにしています。
AI導⼊状況について「導⼊済み団体数は、都道府県・指定都市で100%となった。その他の市区町村は50%となり、実証中、導⼊予定、導⼊検討中を含めると約72%がAIの導⼊に向けて取り組んでいる。」となっています。
RPAについては「導⼊済み団体数は、都道府県が94%、指定都市が100%となった。その他の市区町村は41%となり、実証中、導⼊予定、導⼊検討中を含めると約65%がRPAの導⼊に向けて取り組んでいる。」となっています。
この報告は2023年12⽉31⽇時点のものですが、調査は2018年から継続して行われており、その経過から導入数は順調に増えていることがわかります。
しかし、「その他の市区町村」についてはその進捗は鈍いとも言え、これは、後に述べる「導入例から見える課題」が影響しているものと考えられます。
自治体におけるAI、RPAの導入の具体例については以下の資料にまとめられています。
これらに掲載されている具体例を整理すると次のようになります。
AIの導入例(生成AIを除く)
- 情報提供
チャットボット:住⺠問い合わせ対応、庁内ヘルプデスク対応、観光情報提供 - 業務ツール
⾳声認識:会議録作成、多⾔語翻訳
⽂字認識:AI-OCR(申請書読取、調査票読込、アンケート読込) - 業務効率化
マッチング : 保育所⼊所マッチング等
画像・ 動画認識 : 道路損傷検出、固定資産(住宅)調査、歩⾏者・⾃転⾞通⾏量の⾃動計測
最適解表⽰ : 国保特定健診の受診勧奨、国⺠健康保険レセプト内容点検、⼾籍業務における知識⽀援、乗合タクシーの経路最適化
数値予測 : 次年度予算額の最適値推定、観光客⼊込状況の予測
生成AIの導入例
- あいさつ文案の作成、議事録の要約、企画書案の作成、ポスター・チラシ等の画像⽣成
- ローコードの作成(マクロ、VBA)等
RPAの導入例
RPAが対象とする業務分野は多岐にわたります。
参考資料の「自治体におけるRPA導入ガイドブック」には6つの活用パターンが記載されるとともに、実際の導入例が詳しく紹介されています。
6つの活用パターンは以下のとおりです。
- 既に存在するリスト化されたデータをシステムに入力する
前提条件として処理する情報が電子化されている必要がありますが、それを業務システムに自動的に取り込むことができます。例として「軽自動車税の新規・変更・廃車処理」「ふるさと納税寄附情報の集約」が取り上げられています。 - 各部署・職員からの個別帳票をとりまとめる
組織内の申請書等を業務システムに入力する作業を自動化することが可能ですが、紙の申請書を電子化するというようなBPRが求められます。例としては「時間外勤務時間の集約・集計」があげられています。 - 外部からの個別帳票をシステムに入力する
住民や企業からの申請書類を業務システムに入力する作業を自動化することが可能です。この場合、紙ベースの申請をデータによる申請に変更することも選択肢ですが、申請者に受け入れられないことも考えられるため、AI-OCRのように紙の情報をデータに変える工夫が必要となります。例としては「給与所得者異動届出書の入力」「支出帳票の作成」があります。 - システムの情報を参照し、機械的に判断する
業務システムに存在する情報を参照し、それをもとに次の処理を判断する流れを自動化することができます。例として「所得状況等調査」が説明されています。 - システムの情報を利用目的に合わせて抜き出す
業務システム内にある情報を参照し、そこから一覧表を作成するという業務は自動化できます。例としては「通勤手当の審査」が取り上げられています。 - 各部署・職員や外部への個別帳票を作成・送信する
業務システムやExcel等でとりまとめている情報から、対象の個人や組織に関わる情報のみを抜き出して帳票を作成し、それをメール添付という形で個別に通知する業務の自動化です。例としては「人事情報の通知」があります。
導入例から見える課題と留意点
AI、生成AI、RPAの導入の成功例は多くあり、そこから課題や留意点も洗い出されています。
ここでは、導入に際してのポイントを「AI、生成AI、RPA共通」「AI特有」「生成AI特有」「RPA特有」に分けて抽出したいと思います。
AI、生成AI、RPA共通の課題と対応策
体制づくり、人材育成
体制づくり、人材育成については、どの自治体においても課題だと捉えられています。
これは、専門的な部署を作る人的な余裕が無いこと、組織的な対応の必要性を意味しています。
この課題には次のような対応策が考えられます。
- 中心となる組織の定義とその明確化(情報システム部署主体、業務担当部署主体、企画政策部署主体等)
- 外部人材の活用(支援事業者、地域情報化アドバイザー)
- 職員の学習機会の確保(各種研修会等)
目的の明確化
何のために導入するのかが明確にならないまま、DXと言う名のもとでのツール導入自体が目的となってしまわないよう、留意する必要があります。
ツール導入を行う場合、その組織の課題や問題点を分析することから検討を開始する必要があります。
そして、そこには「BPRが先決課題であること」を忘れてはいけません。
導入目的の明確化のために、以下のような情報収集が役に立ちます。
- 先行自治体からの情報収集
- 業務フロー図等の作成を通した地域課題や業務課題の明確化
- AI、RPA関連事業者からの情報収集
費用対効果の把握
新たな取り組みに際しては、費用対効果を分析し、それをもとにツールの導入を予算化する必要があります。
また、運用においても予算が必要になりますし、外部の手を必要とするのであれば、そのコストも考慮しなければなりません。
具体的には次のようなアクションが求められます。
- RFIの実施
- 先行的にAIを導入した自治体へのヒアリング
- 効果についてのKPIの設定
- 他の自治体との共同利用の可能性の模索
これらの他、「デジタルデバイド対策」「セキュリティ対策」「ネットワーク3層分離問題への対応」「効果の検証方法確立」等が課題、留意点として考えられます。
AI特有の課題
AIを導入する際の課題としては「導入検討時に他の案件と比較して優先順位が低くなってしまうこと」があげられます。
これは、共通課題としても挙げた費用対効果の問題と、AIによりできることの曖昧さにより、対象とする業務課題の洗い出しに時間がかかることに起因します。
生成AI特有の課題
生成AI活用のためには、ガイドライン策定が急務であると言われており、その策定が導入における大きな課題となっていると考えます。
また、ガイドラインが必要となる理由として、以下の留意点が挙げられます。
- 生成AIに対する入力としてのスクリプト作成能力が必要であること
- 生成AIが誤情報を作成する可能性(ハルシネーション)があり、人間がそれを判断する能力を持たなければならないこと
- 自組織の機密情報や個人情報を生成AIにインプットすると、それをAIが学習し、外部に流出するというセキュリティインシデントにつながる可能性があること
- 生成された情報の著作権に留意しなければならないこと
RPA特有の課題
RPAには業務プロセスをもとにしたシナリオとルールの設定が必要です。つまり、RPAの導入、利用に際しては業務知識が前提であるということです。
また、法律や制度の変更の影響を受けて業務プロセス自体も変更しなければいけないケースが度々発生しますので、シナリオの保守性の確保、シナリオ保守の体制確保により継続性を持つことが必要になります。
このような点が導入の際に課題となっているものと考えられます。
まとめ
RPA、AI、生成AIという技術は日進月歩で、技術の解説や導入のガイドラインが技術に追いつかなくなることも懸念されます。
ただ、本記事で課題として挙げたように「組織や人材の体制を整備する」「利用目的を明確にする」「ツールの導入を自己目的化しない」「BPRを先決課題とする」等のガバナンスは技術の進歩に関係なく必要なものです。
そして、そのことはウォータフォール型のシステム開発において「組織体制が重要」「要件定義が重要」と言われる意味と同様、RPA、AIという新たな技術の利用によって「何が変わり、誰が、どんな恩恵を得ることができるのか」を考えることに他なりません。
新たな技術それ自体は住民へのサービスの質の向上や組織の業務の合理化に効果を発揮するための「シーズ」だと言えますが、まずは、自治体や住民、地域の課題、つまり、「ニーズ」を明確にすることから始める必要があります。
これは、他のシステム開発における留意点と共通した重要な姿勢です。
GPTechでは、様々なシステム導入の支援を通し、発注者側の体制強化を目指しています。
新たな技術の導入には、組織内部だけでの検討には限界があることも考えられます。
本記事でも記載しましたが、課題の解決のためにはGPTechのような外部人材の活用も重要な要素となるのではないでしょうか。
AI・RPAの活用推進についてお困りごとのある自治体職員の方がいらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせください。