自治体情報システムの標準化とは?背景や目的、メリットと実態について解説!
2024年10月更新(2023年9月公開)
自治体DXにおける第一の取組事項として掲げられている、「自治体の情報システムの標準化・共通化」。自治体では、現在この取り組みの佳境を迎えています。行政の効率性向上と市民サービスの向上のため、自治体情報システムの標準化は不可欠なものです。しかし、国の目指す姿と自治体の実態の違いが明確に表れてきている現状もあります。
本記事では、自治体での取組についての実態も踏まえ、自治体情報システムの標準化について解説しています。
目次
1.「自治体の情報システムの標準化・共通化」とは
自治体情報システムの標準化とは、デジタル庁や総務省など国が掲げるDX推進施策の一つで、自治体が重点的に取り組むべき事項とされています。
具体的には、自治体の基幹システムにおいて、住民サービスに直結する20業務を、国の示す標準仕様に合わせた標準化システムへ移行する取組を指しています。
「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(以下「標準化法」という。)」においては、「住民の利便性の向上、地方公共団体の行政運営の効率化及び地方公共団体情報システムに係る互換性の確保のため、地方公共団体情報システムに必要とされる機能等についての統一的な基準に適合した地方公共団体情報システムを地方公共団体が利用すること」と規定されています。本記事では、以降「自治体情報システム標準化」と記載します。
1-1. 自治体情報システム標準化の背景
自治体の情報システムを標準化することの必要性は以前から認識されており、APPLIC(一般財団法人 全国地域情報化推進協会)による地域情報プラットフォーム標準仕様や、総務省による中間標準レイアウトの公開など、様々な取組がなされていました。
このような取組によって、主要な業務システムにおけるデータ連携やデータレイアウトの標準化は一定程度進んでいます。しかしこれらには法的な制約は無く、また、機能については各ベンダの競争範囲であることや、利用者である自治体が利便性向上のため個々にカスタマイズを行っていることで、同様の業務を行うためのシステムであっても、製品や自治体ごとに多様な差異があるというのが現状です。
このような状況が、自治体の情報システムに係る人的・財政的負担を増やし、迅速で柔軟なシステム対応を阻害している要因であり、今後自治体が安定的かつ持続可能な形で行政サービスを提供し続けるために改善すべき課題であると考えられています。国は、これらを改善するための手段として自治体情報システム標準化を不可欠として、検討を進めてきました。そして2021年5月、標準化法が公布され、法律で定められた地方自治体の責務となりました。
1-2.自治体情報システム標準化の目的
自治体ごとの情報システムの差異が様々な課題の要因となっていることから、それらを解決するための手段として標準化を行うこととしています。
国の示す「地方公共団体情報システム標準化基本方針」には、「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化の取組により、地方公共団体が情報システムを個別に開発することによる人的・財政的負担を軽減し、地域の実情に即した住民サービスの向上に注力できるようにするとともに、新たなサービスの迅速な展開を可能とすることを目指している。」と示されており、具体的な「目標」として下記5つの取組を挙げています。
1.標準化基準の策定による地方公共団体におけるデジタル基盤の整備
デジタル3原則に基づく業務改革(BPR)とデジタル処理を前提とした業務フローを基に標準化基準 を策定・変更し、地方公共団体におけるデジタル化の基盤を整備。
2.競争環境の確保
機能要件、データ要件・連携要件等の仕様の標準化とガバメントクラウドの活用により、競争環境の確保と新規参入の機会創出などを実現し、ベンダロックインを回避。
3.システムの所有から利用へ
ガバメントクラウドの活用により整備・管理に係る負担を軽減することで、人的・財政的なリソースを本来職員が行うべき企画立案等の業務に注力。
4.迅速で柔軟なシステムの構築
制度改正や突発的な行政需要への緊急的な対応等の際、国が標準化基準を策定又は変更することで自治体個別対応の負担を軽減。その前提条件として、カスタマイズの原則禁止、モダンアプリケーションでのシステム構築。
5.標準準拠システムへの円滑かつ安全な移行とトータルデザインの実現
令和5年(2023年)4月から令和8年(2026 年)3月までを「移行支援期間」として、国が早期移行検証、支援、共通機能や文字環境仕様を整備。
1-3.自治体情報システム標準化の対象業務
標準化の対象業務としては、標準化法第2条第1項に規定する「情報システムによる処理の内容が各地方公共団体において共通し、かつ、統一的な基準に適合する情報システムを利用して処理することが住民の利便性の向上及び地方公共団体の行政運営の効率化に寄与する事務」という観点から、以下の20の事務が指定されており、2025年度までの標準準拠システム移行が目標となっています。
多数の部署に跨る業務が対象となっており、標準化が大規模プロジェクトであることがわかります。
2.標準化のメリットとして期待されること
「1-2.自治体情報システム標準化の目的」で挙げた目的と、その手段としての目標を見てもわかるように、主に以下の3点が自治体情報システム標準化によるメリットとして期待されています。これは総務省発出の「自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書」に、効果として明記されているものです。
(1)コスト削減・ベンダロックインの解消
自治体情報システム標準化により、自治体が個別に業務システムの開発を行う必要がなくなる。また、ガバメントクラウドの活用によって経済性やセキュリティを担保した業務システムを運用できることで、コスト削減に繋がる。さらに、システム機能の標準化やガバメントクラウドの利用により新規参入、システム移行の障壁が下がることで、ベンダロックインの解消にも繋がる。
(2)行政サービス・住民の利便性の向上
標準化によるシステム調達や運用の負担が軽減されることで、その分の人的リソースを企画立案や住民サービスの提供に回すことができる。それにより、今後労働力が不足する中でも持続的に行政サービスを提供するための自治体組織体制に貢献する。また、標準化システムとオンライン申請サービスの連携が加速することにより、住民の利便性向上にも寄与する。
(3)行政運営の効率化
情報システムの標準化に合わせ対象事務の業務フローを見直すことで、業務の効率化に繋がる。また、システムの標準化や自治体業務の共通化により、RPAやAI等の技術を活用しやすくなることで、更なる業務プロセスの見直しも考えられる。さらに、ガバメントクラウドの活用等により、新しい行政需要に対応するため、ガバメントクラウド上に全国で共用可能なシステムを迅速に構築・展開することも可能となる。
3.自治体情報システム標準化の実態
ここまで、国の掲げる施策として、自治体情報システム標準化の内容やメリットを解説してきましたが、実際に現在このプロジェクトに取り組んでいる自治体の現状についても触れておきたいと思います。
各自治体においては、基本的に「基幹システムの更改」プロジェクトとして、情報システム部門を主とした体制のもと対象事務の担当者や現行ベンダを交えた検討・移行計画が進んでいます。従来のシステム更改と大きく異なるのは、「法令による責務であること」、「全国一律の国が策定した仕様に合わせること」、「全国一律の移行期限が設定されていること」この3点だと考えられます。現在、これらの相違点も影響し、様々な課題や新たな論点も出てきています。
3‐1.自治体情報システム標準化実現の課題
自治体情報システム標準化において最も大きな課題となっているのは、その期限です。国は、2025年度末までに標準準拠システムへの移行を完了させることを目標としています。しかし、標準化法の制定が2021年5月、全対象事務の標準化仕様が出揃ったのは2022年8月と、元々準備期間に余裕が無い上、公表された標準仕様が改定を重ねておりベンダ側のパッケージ開発方針が定まらない、標準仕様と現行業務の差異が大きく、BPRに時間がかかっている等、多くの自治体が「期限」に間に合わない可能性が指摘されています。特に政令指定都市においては、標準仕様において政令指定都市特有の業務フローが考慮されず、標準準拠システムを適用することは困難とされていました。
また、約1,700ある自治体が一斉にシステム更改を行うため、導入支援を行うコンサルやシステム構築を行うベンダのSE等、IT人材の不足という課題も顕在化しており、これも期限に間に合わない要因のひとつとなっています。
次に挙げられる課題は、そのコストです。ガバメントクラウドでの運用開始後のコスト削減効果は期待されつつも、実際にはガバメントクラウドの活用は「努力義務」であり、全自治体の全システムがガバメントクラウドに構築されるものではありません。また、ガバメントクラウドに構築する対象事務の標準準拠システムへの移行については国からの支援措置が取られるものの、関連する周辺システムの移行やその連携に係る費用については、支援措置がありません。これらの費用や、標準準拠システムとのGAPを埋めるためのオプション機能やEUC構築等に係る費用、移行までにかかる自治体の費用負担は大きなものになっています。さらに、ガバメントクラウドの利用についても、その運用に係る費用(ガバメントクラウド利用料、運用管理経費、新規回線費用)は当初の想定程のコスト削減には繋がらない可能性も指摘されています。
3‐2.自治体情報システム標準化に向けたBPR
前述のとおり、様々な課題があるのが現在の自治体情報システム標準化の実態ですが、標準化を否定するものではありません。自治体情報システム標準化はその目的を考えれば、必要不可欠なことは明らかです。
しかし、現状では前提となる業務に自治体間の差異があり、もちろん標準準拠システムとも差異が存在します。また、オプション機能や独自施策に対応する機能等により、パッケージ間にも差異が生じます。結果として、国が目指す「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」は2026年3月の期限時点では達成できず、また、それを前提としたメリット・効果も限定的なものになることが予想されます。
このように課題の多い中、早期移行団体など、政令市から町村まで規模を問わず検討が進んでいる自治体も多くあり、検討の進み具合にも自治体によって大きな差があるのが現状です。
ではその差は何に起因するのでしょうか。そこで重要となるのが、各自治体が「義務」としてではなく、自団体の将来像を描いた時に必要な取組として、標準化をどのように捉えるか、という点だと考えています。自治体情報システム標準化の背景や目的に照らして考えれば、将来的な労働力の不足、情報システムに係る人的・財政的コストの増大、多様な住民ニーズへの柔軟かつ迅速な対応など、現在の課題とされていることはどの自治体にも共通しているものです。その課題を解決するための一歩として、全体最適化視点でのBPR(業務改善)に基づいた自治体情報システム標準化に取り組み、これまでの個別最適化された業務やシステムの在り方を見直していけば、目指す姿に近づけるのではないでしょうか。
4.国の方針転換と自治体への影響
課題として記載したように、自治体からは移行期限について変更を求める声が多く挙がっていました。そのような状況から、国は2023年9月に「移行の難易度が極めて高いと考えられるシステムについては、主務省令において、例外的に所要の移行完了の期限を設定する」と基本方針を改めています。(ここでいう「移行難易度が極めて高い」とは、現行システムがメインフレームであることや、現行システム事業者が撤退する等して検討が進まない状況にあることなどを指しています。)
また、2024年9月にはこれまでデジタル庁で策定してきた「データ要件・連携要件標準仕様書」について詳細化せず「データ連携に関する課題は事業者間協議にて解決を行う」という方針を、その後、リファレンス(推奨指針)というこれまでの標準仕様のような強制力を持たない指針の作成を公表しました。データ要件・連携要件の標準化はシステム間、自治体間の連携をスムーズに行うための非常に重要な取組であり、これを「事業者間協議」とし統一しないということは、標準化の意義そのものを根底から揺るがすような事態です。しかし、既に開発・運用段階に入っているベンダからの手戻りに対する懸念の声が大きく、移行期限を優先するために断念したものと自治体関係者からは理解されています。さらに自治体は、この「事業者間協議」を円滑に進めるための調整を行う必要が出てきます。
このような国の方針転換は、「移行期限」に起因するものです。本来の目的を達成できない状態で期限を厳守することに意味があるのか、今一度立ち止まって考えてもらう必要があるのではないでしょうか。この点については、東京都が国への要請を行っていたり、大手ベンダから期限延期の通知が出てきたりという動きもあり、今後も注視が必要となります。
5.まとめ
自治体情報システム標準化は必要不可欠な施策ではありますが、多くの課題があることや、本来の目的を達成するまでにはまだ時間がかかることを解説しました。
GPTechでは、実際に自治体の標準準拠システム移行に係るプロジェクトを支援しており、自治体内で検討を進める現場に立ち会っています。その中で、このプロジェクトを成功に導くポイントは情報システムの調達や運用管理を担う部門が、この取組をいかに「自分事化」し、「どのような姿を目指すか」を業務担当者や上層部等、ステークホルダーと合意できているか、という点なのではないかと感じています。
GPTechでは自治体情報システム標準化に限らず、IT施策立案からITガバナンス体制強化、システム導入・刷新支援まで幅広くサポートをしています。ご相談をご希望の自治体職員の皆さま、お気軽にお問合せください。