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自治体DXとは?自治体DXはなぜ必要?自治体DXの本質がわかる!

世界中でデジタル技術の進歩により社会に変革が起きる中、日本においてもDXが叫ばれて久しく、様々な分野でデジタル技術を活用した変革が起きています。それに伴い、自治体においてもDXへの取り組みがますます重要となっています。
自治体DXは、地域社会に変革をもたらす非常に重要な要素であり、日本全体のDX推進につながるものと考えられています。本記事では自治体DXの解説を交えてその重要性や課題について考察しています。

1.自治体DXとは

自治体におけるDXとは何なのか、またその主要な施策として掲げられている事項について、解説します。

 

1-1.そもそもDXとは

DXとはDigital Transformationの略で、この言葉が最初に使われた論文では「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」と記されています。
また、経済産業省では「デジタルガバナンス・コード2.0」の中でDXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。

1-2.自治体DXの定義

実は、自治体DXという言葉の定義を明確に示したものはありません。
政府は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」にて「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」をデジタル化のビジョンとして掲げています。
定義するとすれば、「データとデジタル技術を活用し、住民のニーズを基に、行政サービスや組織、業務そのものを変革し、住民の幸福度向上を目指すこと」といったところでしょうか。

1-3.自治体がまず取り組むこと

総務省では、自治体DX推進計画において「自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させる」とともに、「デジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく」という指針を掲げています。
中でも重点的に取り組むべきこととして、下記の7つを示しています。

  •  自治体フロントヤード改革の推進
  •  自治体の情報システムの標準化・共通化
  •  公金収納におけるeLTAXの活用
  •  マイナンバーカードの普及促進・利用の推進
  •  セキュリティ対策の徹底
  •  自治体のAI・RPAの利用推進
  •  テレワークの推進 

2.自治体DXの重要性

現在のように自治体DXが大きく注目されるようになったのはなぜなのでしょうか。それを考えると自治体DXの重要性が見えてきます。

 

2-1.日本のDX推進政策における自治体DX

日本のDX推進政策において、大きな契機となったのは、2021年のデジタル庁創設です。デジタル庁は、省庁の枠組みを超え、また、行政機関だけではなく民間企業との連携も含めた、日本のデジタル社会実現の司令塔として発足しました。
そのデジタル庁が掲げる「デジタル社会の実現に向けた重点計画」には、多くの自治体業務に関連する施策が記され、「行政 DX の推進が民間サービスを含めた国民生活向上に資する」と明記されており、DXによって国民が利便性や多様性を実感するには、自治体DXは欠かせないものであることがわかります。

2-2.地域社会への影響

元々自治体におけるデジタル化は、少子高齢化による労働人口の減少や、それに伴う行政サービス低下等に対応するための施策として掲げられていましたが、自治体DXが大きく注目されるようになったきっかけは新型コロナウイルスです。
新型コロナウイルスの感染拡大によって社会は混乱し、日本社会のデジタル化の遅れという課題が可視化されました。中でも自治体については感染者報告やワクチン接種、給付金の支給等、迅速な対応が求められる中、紙やFAXといった従来型の業務による遅延、押印必須とした申請書等既存ルールによる制約、団体間でのデータ活用ができていないことなど、多くの問題点が指摘されました。同時に、私たちの生活にとって自治体の提供するサービスのもたらす影響がどれほど大きいかということが明らかになりました。
またこの時、地域・社会全体が変化に対応し続けていくためには、自治体が業務そのものをデジタル化により変革することが不可欠だということを多くの国民が認識したのではないでしょうか。

3.自治体DX推進の課題

これまで自治体DXの重要性について考察してきましたが、多くの自治体でDXは進んでいない、または、うまくいっていない、というのが現状です。では、なぜ自治体DXは進まない、うまくいかないのでしょうか。

3-1.取組範囲

自治体DXが進まない要因としては、その取組が広範になることが関係しています。
大きくは、自治体が推進する地域向け(外向け)のDXと、自治体組織自身(内向け)を対象としたDXという2パターンがあります。
そのうち地域向けのDXについては、国の事業である「デジタル田園都市国家構想」との関連もあり、「心ゆたかな暮らし」(Well-Being)と「持続可能な環境・社会・経済」(Sustainability)を地域社会で実現していくといった取り組みとなるため、自治体外部にも関係者が多く、様々な分野での対応が必要となります。
また、自治体組織自身を対象としたDXについても、様々な部署にステークホルダーがまたがり、地域向けのDXを踏まえた検討・取組が必要となります。
そのため誰が何をすべきか、どのように取り組むべきかが曖昧となり、進まない・うまくいかない、という状況になりがちなのだと考えられます。

3-2.自治体の組織

では、なぜ取組の主体が曖昧になるのでしょうか。そこには、自治体の組織が関係しています。
自治体は政治家である首長をトップとしたピラミッド型組織です。政策を基にした上位下達の指揮命令系統が一般的で、下層の一般職員は「言われたこと・決まったことしかできない、やらない」状態になりがちです。このような状態は、「新しいことを受け入れられない」「自主性・自律性が無い」組織となってしまう弊害があります。
また、各部局の所管省庁が異なることから国と同様に縦割り組織となっており、部局を横断した意思決定や取り組みが難しい、全体を俯瞰し調整する役割を担う人物がいない、といった事情もあります。

GPTechでは自治体組織自身を対象としたDX を推進する情報部門の支援を行っていますが、個別のシステム調達・導入であっても各業務担当課と情報部門、幹部層との温度差を感じることは多く、これらの組織的な問題が、自治体DXの推進を阻む大きな要因であると考えています。
自治体DXを成功させるためには、絶対的な意思決定者である首長がその意義や目的を明確にし、組織全体が同じビジョンに向かうことが大切です。そのうえで、情報部門が部局や職位を超えた情報共有と協働の調整役として活動することでき、職員が個々の業務における地域課題への意識や役割を自ら考えて職務を遂行することを許容する、オープンな組織へと変革していけば自治体DXは進み、より意義のあるものになるのではないでしょうか。
※自治体に限らない情報システム部門のあり方についてはこちらの記事も参考にしてください。

3-3.公平性の担保とデジタルデバイド

もうひとつ、自治体DXを進めるうえで避けて通れない課題が「デジタルデバイド」です。自治体には、公平性の担保という大原則があり、一部の住民や事業者だけが恩恵を受ける、または、恩恵を受けられない施策をうつことが難しいという現実があります。
しかし、これにも考え方の転換が必要です。公平性の担保を理由に「できない」と考えるのではなく、どうすれば公平性を担保できるのか対策を考える、という考え方へシフトしなくては変革はできません。
デジタルデバイド解決に向けては、デジタル化によるそもそものメリットが分からないということや、中途半端なデジタル化によりかえって手間が増える・不便になってしまう、立場が違う人たちのニーズを整理する必要がある、一時的な対策しかなされずに事業やコミュニティが継続できない、といった様々な課題があります。

デジタルデバイド解消のための課題への対策としては、デバイド状態の方へのケア、意識変革、コミュニティの形成といったことが必要になりますが、直接的なデジタル技術支援以外にも、プロジェクトマネジメント観点での対策が必要となってきます。

デジタルデバイドについて詳しく知りたい方はこちらの記事もあわせてご確認ください。

 

3-4.その他の課題

その他にも、自治体DXを進めるためには重大な課題となり得る要素があります。現在の取組状況も踏まえて解説します。

  • セキュリティ対策の強化:デジタル化に伴い、情報セキュリティリスクも増加します。自治体は、市民の個人情報等重要なデータを守るためにセキュリティ対策を徹底することが不可欠であり、DXの推進と併せて検討する必要があります。自治体DX推進計画ではセキュリティ対策の実施状況として、CISOの任命とCSIRTの整備を指標としていますが、いずれの項目も未だ100%には届いていません。また、自治体ネットワークのあり方についてもゼロトラストアーキテクチャの考え方に基づく抜本的な見直しが検討される等、今後対応すべき多くの課題が存在します。
  • 他組織との連携:自治体が自団体だけで地域全体のDXを進めることは難しいものです。他の自治体や民間企業、学術機関等とのパートナーシップを構築し、知識やリソース・資金等の協力を得ることで、より効果的なDX推進が可能になります。全国的な課題とされる地域におけるデジタル人材の確保・育成についても、官民・組織の垣根を超えた取り組みが求められています。
  • ユーザー目線:システム刷新や導入にあたっては、ユーザーとなる市民や職員のニーズをよく理解し、ユーザー中心のアプローチを取ることが重要です。ユーザーが使いやすいサービスやシステムを提供することで、DXの受容度が高まります。各業務担当部署にこの考えを基本とすることが求められ、自治体DX推進手順書においてはDX推進リーダーの役割として記載がありますが、市区町村の約半数において未だDX推進専任部署の設置が成されていない状況を鑑みると、そのような意識を浸透させることは困難な状況にあると考えられます。
  • オープンデータ:自治体が積極的にオープンデータを公開・活用することで、市民とのコミュニケーションを促進し、新たなサービスの創出につなげることができます。オープンデータ・バイ・デザインの考え方に基づく業務や情報システムの設計に取り組む必要がありますが、自治体におけるBPR推進の困難さが影響します。
  • 意識改革:前例や慣習といった従来の枠にとらわれず、課題解決のために必要なことは何かを考えることが重要です。そうすることでより効率的なプロセスやより効果的な施策が生まれます。多くの自治体で人材育成のための研修等の取組を通して意識改革を促している状況はありますが、人事・組織運用上の取組を合わせて行う必要があります。

4.まとめ

自治体DXを進めるためには、自治体は自身の地域や組織が抱える課題や状況に合わせ、これまで述べてきたような要素を考慮した戦略を立てることが重要です。また、戦略を立てて終わりではなく、継続的な評価と改善を通してDXの本来の目的を確認しながら、地域社会の発展において新たな役割を担うことが期待されます。
自治体DXは、それ自体が目的ではありません。DXはあくまでも手段であり、DXを通して何を実現したいのか、目的を明確にしたうえで、公共サービスを変革し、住民や地域にとって意味のあるデジタル化を実現していくことが必要です。
そして、自治体DX実現のためには、地域をよりよくしたいという想い・情熱(パッション)だけではなく、ITマネジメントやITガバナンスに関する知識・スキルが必要になってきます。
GPTechでは自治体におけるIT施策立案からITガバナンス体制強化、システム導入・刷新支援まで幅広くサポートをしています。自治体で新たな動きを進めるにあたっては、外部の知見や経験を活用することも有効ではないでしょうか。ご相談をご希望の自治体職員の皆さま、お気軽にお問合せください。

この記事の編集者

下里 朋子

下里 朋子

自治体で情報政策分野を9年間担当した後、IT調達ナビの運営会社である(株)グローバル・パートナーズ・テクノロジーに中途入社。ITコンサルティング業務に従事しつつ、IT調達ナビでシステム発注に役立つ記事を展開するメディア運営業務にも携わる。

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