
LGWAN(総合行政ネットワーク)とは?自治体職員が知っておくべき概要や仕組みについて解説
「LGWANってよく聞くけど、どんなものなのかイメージが湧かない・・・」
「インターネットと何が違うんだろう・・・」
自治体職員として働いていると、「LGWAN」という言葉に一度は聞き覚えがあると思います。
ですが、この「LGWAN」の正確な意味や概念を把握されている方は、少ないと思います。
自治体で仕事をする上では、この「LGWAN」を正しく理解できているかどうかで、仕事に対する理解度も大きく異なってきます。
本記事は、「LGWAN」の成り立ちや仕組み、インターネットとの違いや活用される場面などについて網羅的に解説する記事です。
本記事を読むことで「LGWAN」とは何なのかについて、理解を深めることができます。
LGWANがなんだかよくわからないという自治体職員の方は、ぜひご一読ください!
目次
LGWANの成り立ちと基本構成
まず初めに、LGWANの成り立ちと基本構成について解説します。
LGWANの歴史と作られた背景
LGWANは「Local Government Wide Area Network(総合行政ネットワーク)」の略称で、全国の地方公共団体を相互に接続する行政専用のネットワークのことを指します。
運営主体は、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)です。(参考リンク:J-LISホームページ)
LGWANは1990年代後半のインターネットの急速な普及と情報技術の発展を受け、国の重要施策として行政の情報化を推進することが掲げられており、この施策の中核インフラとして2001年から本格運用が開始されました。
また、1990年代後半は地方分権の流れが強まる一方で、効率的な行政運営のための自治体間連携が求められる時代でもありました。
当時は特に自治体間での情報連携は紙媒体や個別回線に依存していたため、効率性や即時性に課題がある状況でした。
住民の転出入処理や税務情報の連携、災害時の広域対応など、自治体間での情報共有の重要性が増す中、全国の自治体を安全に相互接続する共通基盤の必要性が高まっていたのです。
こうした情報連携(個人情報含む)をセキュリティ面を担保しつつ行うためには、一般のインターネット回線では困難であると考えられたため、インターネットとは分離された閉域網としてLGWANは設計されました。
なお、LGWAN構想の初期段階では、「霞が関WAN」(中央省庁を結ぶネットワーク)との接続を含め、国と地方を結ぶ総合的な行政ネットワークとしての位置づけがありました。
当初は47都道府県と政令指定都市を中心に整備が進められ、その後市区町村への展開が進みました。
現在では、国内すべての地方公共団体が接続される、日本の電子自治体の基盤インフラとなっています。
LGWANの導入以降、電子申請システムや住民基本台帳ネットワークなど、様々な全国的な行政情報システムがこの基盤上に構築され、行政のデジタル化と効率化に大きく貢献してきました。
実はマイナンバー制度導入においても、LGWANは重要な情報連携基盤として機能しています。
LGWANの基本構成
LGWANの基本構成は、以下の通りです。
LGWAN接続ルーター
地方自治体のネットワーク環境とLGWANを接続するための、専用のルーターです。
ルーターの調達方法は2通りあります。
1つ目はネットワーク事業者からあらかじめ接続に必要な設定を行ってあるルーターをレンタルする方法です。
2つ目は自治体側でハードウェアのみ調達し、調達したルーターに別途ネットワーク事業者に必要な設定を入れてもらう方法です。
自治体側の担当者にとって最も手間が少ない方法は1つ目のレンタル方式ですが、2つ目の方法と比較すると費用が割高になる可能性がありますので、状況に応じて最適な調達手法を選択すると良いです。
都道府県ノード
都道府県ごとに設置されている、市町村の回線を集約し中継するための機器です。
通信帯域は100Mbps~1Gbpsです。
また、一部の都道府県では設置されていないケースもあります。
東日本・西日本ポイントオブインターフェース(POI)
LGWANの全国的な信頼性と可用性を確保するために重要な役割を果たしているのが、東日本POI(Point of Interface)と西日本POIです。
大まかな役割としては、全国の都道府県ノードからの通信の集約に加え、LGWAN上で基本プロトコルでのサービス提供、不正アクセス検知・監視といったセキュリティ面の機能も担っています。
また、集約拠点を東日本と西日本に分けることで地理的な冗長性を確保しているため、大規模災害や広域障害が発生した場合でも片方のPOIが機能を継続できれば、全国的にネットワーク接続を維持することが可能です。
全国ネットワークオペレーションセンター(NOC)
LGWAN全体を24時間365日体制で監視・管理する中枢神経として機能しているのが、全国ネットワークオペレーションセンター(Network Operation Center: NOC)です。
このNOCはLGWANの安定運用と安全性を確保するための重要な拠点として位置づけられています。
以上がLGWANの基本構成です。
ちなみにですが、現在のLGWANの構成は「第4次LGWAN」と呼称されており、市町村の接続方式としては、都道府県ノードを中継しLGWANに接続する方法、仲介せず直接接続する方法、両方を利用する方法の3つがあります。
LGWAN-ASPサービス
続いて、LGWANのネットワーク上で利用可能な「LGWAN-ASP」サービスについて解説します。
LGWAN-ASPサービスとは?
LGWAN-ASP(エルジーワン・エーエスピー)サービスは、LGWAN上で提供される行政機関向けの専用アプリケーションサービスです。
インターネット上のASP(Application Service Provider)サービスと同様の概念ですが、閉域網であるLGWAN上で利用できる点が特徴です。
サービスの種類にもよりますが、インターネット上でASPサービスとして広く普及している製品を、LGWAN-ASP版としてLGWAN上で提供しているケースが多いです。
上記の理由としては、後述するインターネットとのネットワーク分離の影響で、市町村側がインターネット上にあるASPサービスを活用しにくい状況となっていることが挙げられます。
サービス提供側からすると、市町村側に自社サービスを利用してほしいもののインターネット上のみのサービス提供となると、ネットワーク上の理由で利用できないことになってしまいます。
この状況を防ぐために、インターネット上で提供している自社サービスと同じものをLGWAN-ASPサービスとして提供している、といった背景もあります。
LGWAN-ASPサービスの例
どのようなサービスがLGWAN-ASPサービスとして提供されているのかについて、具体的なイメージを掴みやすくするために代表的なものを列記しました。
- 各種業務システム(税、住宅など)
- 人事給与・庶務事務などの内部情報システム
- 生成AIサービス
- 電子契約サービス
- 例規集システム
- CMSシステム
- GISシステム など
このように、自治体向けの業務システムなどが多数提供されています。
LGWAN-ASPサービスの一覧
LGWAN-ASPとして提供されているサービスの一覧については、J-LISのホームページ上で確認することができます。
参考リンク:J-LISホームページ_LGWANASPサービスリスト
新たにLGWAN-ASPサービスの利用を検討する際は、リンクのページで現在提供されているサービスの一覧を確認することができますので、参考にしてください。
LGWANとインターネットとの関係性
ここからは、LGWANとインターネットとの関係性について解説します。
三層分離について
三層分離とは、「LGWAN接続系」、「インターネット接続系」、「マイナンバー利用事務系」の三環境に自治体ネットワークを分離し運用するセキュリティ対策のことを指します。
以前はLGWANもインターネットも一つのネットワーク環境で運用していた自治体もありましたが、2015年6月に発生した日本年金機構へのサイバー攻撃による個人情報流出事件を発端に、自治体のセキュリティ対策の強靭化を行うことが重要視されたため、三層分離の対策がなされることとなりました。
当時はマイナンバー制度施行の直前であったため、自治体のセキュリティ対策がより注目を浴びた側面もあります。
こうした背景もあって、今の自治体は三層分離を行ったネットワーク上で業務を行っているのですが、この対策により業務効率が著しく低下してしまったという課題があります。
主な課題としては、ネットワーク分離によりクラウドサービスの活用が困難である点や、ネットワーク間のデータ移動がどうしても業務上必要であるにも関わらず手間が大きい点などが挙げられます。
三層分離の対策により自治体のセキュリティ対策は一定程度向上したものの、前述の業務効率の低下の課題があるため、ゼロトラストネットワークの活用などネットワークモデルの見直しが次の取り組みとして議論されている状況です。
さらに詳しく三層分離について知りたい方は、下記リンクの記事もご一読ください。
LGWANメールとインターネットメール
自治体のネットワーク環境には、LGWANネットワーク内だけで利用可能なLGWANメールと、インターネット側で利用できるインターネットメールの2つがあります。
「メール」と一括りにしてしまう方も多いと思いますが、前述の違いを理解しておくことは業務を行う上で重要です。
よくありがちなミスですが、他の市町村や省庁にメールを送信する際、相手のアドレスがLGWANメールにもかかわらず、インターネットメールから送信してしまうという取り違えです。
アドレスは間違っていないのになぜかメールが届かないといったケースは、そもそもメールの環境が違うのでは?という視点を持っておくことで早期に誤りに気付く可能性が高まります。
ややこしい点としては、「@city.xxx.lg.jp」といったアドレスでもLGWANではなくインターネット側に公開されているアドレスというケースもありますので、自分がメールを送信しようとしているアドレスがどちらの環境なのかは常に確認する必要があります。(特に初めて送る相手の場合)
LGWANとマイナンバーとの関係性
続けて、LGWANとマイナンバー制度の関係性について解説します。
マイナンバー情報連携の基盤としてのLGWAN
LGWANは、マイナンバー制度における情報連携の重要な通信基盤として機能しています。
マイナンバー制度では、各行政機関が保有する個人情報を連携させることで、行政手続きの簡素化やより正確な情報に基づく行政サービスの提供を実現していますが、この情報連携を安全に行うための経路としてLGWANが活用されています。
具体的には、以下のように活用されています。
- 自治体とマイナンバー情報連携のための中間サーバーとの接続
- 情報提供ネットワークシステム(コアシステム)への接続経路
- マイナポータルと自治体システムとの連携基盤
自治体中間サーバーとLGWAN
マイナンバー制度の根幹を支える「自治体中間サーバー」は、LGWANを介して各自治体のシステムと接続されています。
自治体中間サーバーは、J-LIS(地方公共団体情報システム機構)が全国の自治体のために集約して運用する共同利用型のシステムです。
各自治体のマイナンバー関連情報を保管し、他機関からの情報照会に応答する機能を持っています。
これにより以前は紙で照会するしかなかった転入した住民の所得情報等について即時で照会し確認することができるようになったため、自治体業務の効率化に一定程度寄与した仕組みといえるでしょう。
マイナポータルとの連携
国民がマイナンバーに関連する情報や手続きにアクセスするための窓口である「マイナポータル」と自治体システムの連携においても、LGWANは重要な役割を担っています。
「ぴったりサービス」と呼ばれる住民がマイナポータル上で電子申請を行う機能と自治体側システムとの連携を行うためのネットワーク基盤としてもLGWANは活用されています。
まだ制度施行からの年数が浅いこともあり、マイナンバーカードを活用した電子申請の普及率はそれほど高くないのが現状ではありますが、今後マイナポータルでのオンライン申請の普及率が向上していくと、より自治体業務の中でも重要度が高くなることが予想されます。
まとめ
LGWANの概要や活用事例について解説しましたが、LGWANに対する理解は深まりましたでしょうか。
また、当社では官民問わず自治体向けにもIT調達支援等、様々なサービス提供を行っております。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございました!