システム発注に関わる
すべての人の成功を支援するメディア

IT調達
IT戦略・ITガバナンス
用語集
運営会社

ERP選定の基礎 ーERP選定に必要な要求の整理と自社に合った製品の見極め方ー|開催レポート

はじめに

2024年12月12日、株式会社グローバルパートナーズテクノロジー(GPTech)主催のウェビナー「ERP選定の基礎」が開催されました。

本ウェビナーでは、数多くのITプロジェクトの支援実績を持つGPTechのコンサルタント小堀が登壇し、自社に最適なERP製品を選ぶために必要な要求整理の手法と、選定時に押さえておくべき基礎知識を解説しました。

本記事では、セミナーの内容を抜粋してまとめ、ERP選定の重要なポイントを明らかにします。

GPTech事業紹介

GPTechは「ユーザー企業の価値追求」を行動原理とする独自のビジネスモデルを展開しています。システム会社との利害関係を持たず、ユーザー企業とのみパートナーシップ契約を結ぶことで、ユーザー企業の発注体制強化を最優先事項としています。

 

ERPの基本概念

ERPは、業務プロセスとデータを統合的に管理するシステムです。現在、統合型ERP、コンポーネント型ERP、ポストモダンERPという3つの形態が存在しています。

統合型ERP
1つのシステムで様々な機能を統合的に管理する従来型の形態

コンポーネント型ERP
必要な機能をモジュールとして選択して利用する形態で、より柔軟な構築が可能

ポストモダンERP
複数のSaaSをデータ連携基盤で接続することで、システム全体を統合的に運用する新しい形態

 

ERPの導入により、データの一元化による業務効率の向上や、経営判断の迅速化、統合的なデータ分析の実現といった効果が期待できます。しかし、これらのメリットを最大限に活かすためには、適切な製品選定が不可欠です。

「最適なERP」を選ぶための要求定義の進め方

ERP選定の基本的な流れ

ERP選定は、まず自社の「やりたいこと」を明確化する要求定義から始まります。次に、RFI(情報提供依頼書)を作成して製品の詳細情報を収集し、その後RFP(提案依頼書)を通じて具体的な提案を依頼します。
最後に、収集した情報を基に最適な製品とベンダーを選定します。

要求定義のステップと重要性

要求定義のプロセスは、関係者からの意見聴取と現状把握から始まります。収集した情報は重要度や優先度に基づいて整理し、最終的に社内外での認識合わせのために見える化を行います。
この過程で特に重要なのは、現場の声を丁寧に拾い上げることと、それらを明確な形で文書化することです。

定義すべき要求は2種類

要求には2種類あります。機能要求が「何ができるか」を定義するのに対し、非機能要求は「どのようにあるべきか」を定義します。

機能要求: 業務を進めるために必要な「やりたいこと」になります。
例えば、「顧客情報を管理したい」「売上データを分析したい」といった具体的な業務内容に関する要求です。

非機能要求: 安心・快適に利用するための要求になります。
デジタルガバメント標準ガイドラインに定められた17項目に加え、GPTechではプロジェクト管理に関する事項を追加し、18項目を非機能要求として定めています。例えば、システムの性能(処理速度、レスポンス)、可用性(稼働時間、障害対応)、セキュリティ、操作性、拡張性、保守性、移行性、法令遵守などが含まれます。

 

非機能要求は意識しないと抜け落ちてしまい、後から変更することが非常に難しいため、必ず確認していくことが重要です。

よくある失敗と対策

ERPの選定・導入において、しばしば見られる課題として
意見の不一致、コスト超過やシステムの使いづらさなどがあります。

意見の不一致
主にコミュニケーション不足や目的の不明確さに起因するため、早期からの現場巻き込みと目的の共有が重要です。

コスト超過
要求定義の不十分さや予算管理の甘さが主な原因となっており、初期段階での要求の明確化とスコープ設定が必要です。

システムの使いづらさ
非機能要求の見落としによって起こることが多く、使い勝手や安定性の事前検討が欠かせません。

ERP選定・導入の成功に必須の要素

ERP導入を成功させるために必要な要素として、スキルや知識が重視されがちですが、
最も重要な基礎的な部分は、ユーザー企業の主体性です。

なぜ問題が発生するのか

ERP導入における問題は、多くの場合、以下の3つの要素が複合的に絡み合って発生します。

ユーザーの主体性の欠如:
ベンダー任せ、システム部門任せといった主体性の欠如は、要件定義の不足や認識のずれを生み、結果として期待外れのシステム導入につながります。

関係者間の意見の相違:
目的や要件に対する関係者間の認識のずれは、合意形成の遅延や不十分な要件定義につながります。

関係者間の連携不足:
情報共有不足やコミュニケーション不足は、認識のずれを増幅させ、プロジェクトの進行を阻害します。

成功に必要な3要素

これらの問題を回避し、ERP導入を成功させるためには、以下の3要素が不可欠です。

ユーザー企業の主体性:
外部(ベンダー)に丸投げするのではなく、あくまでも自分たちで選んでいくという強い意識が必要です。社内においても、ユーザー部門が「システム部門がなんとかしてくれるだろう」と思ってしまう状況を避け、当事者意識を持つことが重要です。

明確な目的と共有:
ERP導入の目的を明確にし、関係者間で共有することで、プロジェクトの方向性を一致させ、スムーズな進行を促します。

円滑なコミュニケーションと連携:
関係者間での密なコミュニケーションと情報共有は、認識のずれを防ぎ、問題の早期発見と解決に繋がります。

ユーザー企業の主体性とは

ユーザー企業の主体性とは、単にプロジェクトに参加するだけでなく、以下の点を意識して積極的に関与することを意味します。

責任感と当事者意識:
プロジェクトの成否は自分たちにも大きく関わるという意識を持ち、責任を持って行動します。

積極的な意思決定への関与:
ベンダーやシステム部門の意見を鵜呑みにするのではなく、自社の業務やニーズに基づき、主体的に意思決定を行います。

明確な要求の伝達:
自社の業務要件や期待する効果を明確に定義し、ベンダーや関係者に正確に伝えます。不明な点は積極的に質問し、認識の齟齬がないように努めます。

継続的な情報共有とコミュニケーション:
プロジェクトの進捗状況や課題を関係者間で共有し、円滑なコミュニケーションを図ります。

変化への柔軟な対応:
プロジェクトの進行中に発生する可能性のある変更や課題に対し、柔軟に対応し、最適な解決策を模索します。

つまり、ユーザー企業が主体性を持つとは、プロジェクト全体を通して、自らが主導権を握り、責任を持ってプロジェクトを推進していく姿勢と言えます。

質疑応答

本セミナー終盤では、参加者から寄せられた質問に対し、小堀が回答を行いました。ここでは、その中から代表的なものをピックアップします。

Q1. カスタマイズが必要な場合、どこまで対応すべきでしょうか?

A.
原則として、標準機能で対応できる範囲は極力カバーし、カスタマイズは最小限にとどめることをおすすめします。カスタマイズが増えるほど開発コストやリスクが高まり、保守運用やバージョンアップの際にも負荷がかかるためです。
カスタマイズがどうしても必要な場合は、以下のような観点から検討すると良いでしょう。

  • ビジネス上の競争優位性を生み出す、もしくは維持するために不可欠な機能か
  • 業務効率化・生産性向上のために重要度が高い機能か
  • 標準機能を活かしてプロセスを変えられないか(業務側の工夫で対応できないか)

カスタマイズの必要性が高い部分に絞り込み、それ以外はなるべく標準機能を活かして運用プロセスを再構築する、というスタンスが長期的にも望ましいです。

Q2. ERPと個別業務システムとの違いは何ですか?

A.
ERPは、会計・販売管理・人事給与など複数の業務領域を統合的に管理できる点が最大の特徴です。データが一元管理されるため、二重入力や整合性確認の手間を削減でき、分析・経営判断も迅速に行いやすくなります。

一方、個別業務システムは、特定機能に特化している場合が多く、その分“深い機能”を持つことがあります。しかしながら、企業全体でみると業務横断的なデータ連携が難しくなる傾向があります。

なお、近年では「ポストモダンERP」という概念も注目されています。これは、ERP単体ではなく複数のSaaSや業務システムを連携基盤でつなぎ合わせ、ERPが持つ統合管理の強みと、個別システムの柔軟性・特化性を両立させようとする考え方です。ただし、導入や連携設計の難易度がやや高いため、慎重な設計・選定が求められます。本日のセミナーでは言及しませんでしたが、弊社のIT調達支援サービスではポストモダンERPでのシステム導入を支援していますので、お気軽にご相談ください。

Q3. ERP導入時、現場担当者からの抵抗が強い場合、どのように対応すればよいでしょうか?

A.
新システム導入に対する抵抗感は、どうしても起こりがちです。以下の対策を講じるとスムーズに進む可能性が高まります。

  1. 早期の情報共有・説明会開催
    • ERP導入の目的やメリットを、具体的な業務シーンに即して伝える
    • 現場が「自分事」として捉えられるようにし、メリットをしっかり理解してもらう
  2. 現場を巻き込んだ要件整理・ワークショップ
    • 上流工程の段階で、利用者の声を取り入れ、要望や懸念を吸い上げる
    • ユーザー部門もプロジェクトチームの一員として参画してもらう
  3. 段階的なトレーニング・教育
    • 新しいシステムに抵抗感を持つ方には、ハンズオンやマニュアルを用意し、操作を習得してもらう機会を早めに設ける
    • サンプルデータを使った操作体験など、現場イメージを掴みやすい形で実施する
  4. 上層部(経営層)のメッセージ・支援
    • 経営層からの「このシステム導入が重要である」というメッセージ発信
    • 組織的に取り組む姿勢を明確に示す

以上を徹底しながらも、“100%抵抗ゼロ”は難しい点も認識しておきましょう。抵抗を最小限に抑えつつ、前向きに取り組んでもらう土壌を作ることがポイントです。

Q4. ERP導入にはどれくらいの期間がかかりますか?

A.
導入範囲や企業規模、システム連携の有無などによって異なりますが、半年~1年半程度が一般的な目安といわれています。選定だけでも数か月かかることが多いため、余裕を持ったスケジュールを組むことをおすすめします。

  • 小~中規模導入:半年~9か月程度
  • 中~大規模導入:1年~1年半程度

なお、開発工数が少ない(標準機能中心で運用する)からといって、導入期間が大幅に短くなるとは限りません。業務プロセスの調整や現場への教育・運用定着にも十分な時間が必要ですので、トータルで考えると大きく変わらないケースもあります。

Q5. 公共組織(官公庁や自治体)と民間企業で、RFPやベンダー選定のやり方が異なる具体的なポイントを教えてください。

A.
民間企業の場合、製品を先に選定した後で構築ベンダーを探したり、ベンダー提案をもとに製品を絞り込むといった、柔軟なプロセスが可能です。

一方、公共組織では、公共調達に求められる透明性・公平性・競争性があり、以下の点が異なります。

  • 製品を先に単独で決めることが難しい
    • 事前に「この製品を導入したい」と決め打ちできないため、提案書の評価や調達計画を公平かつ厳密に設計する必要がある
  • 入札プロセスにおける制約
    • RFI/RFPの内容や評価基準を詳細に設定し、複数ベンダー・製品の提案を比較・検討する
    • 仕様に疑義や変更が生じた場合の手続きにも注意が必要

公共組織では、調達前の要件整理や調達計画作りがより慎重に行われます。民間ほど自在に方針転換しにくい分、事前の準備・設計がプロジェクト成功の鍵を握ると言えます。

Q6. ベンダーのサポート体制が思ったより手薄…と後から気づかないようにするには?

A.
サポート体制で後悔しがちなケースとして、以下のような原因が考えられます。

  • 価格優先でベンダーを選定し、サポート内容のチェックが甘かった
  • ベンダーが提供するサポート範囲(時間帯や対応手段、緊急時の連絡先など)を明確に確認していなかった
  • 必要なサポート要件(24時間対応/平日対応/多拠点へのサポートなど)を事前に洗い出していなかった

対応策としては、以下を徹底することをおすすめします。

  1. RFPにサポート要件を具体的に盛り込む
    • 希望するサポート時間・範囲や緊急時の対応レベルを明記
  2. ベンダーの実績や体制を確認
    • 他社事例のサポート実績・サポート窓口の規模・体制をヒアリングする
  3. 費用項目を詳細に確認
    • 「○時間以上のサポートは追加料金」「土日対応は別途見積り」など、隠れたコストの有無を確認

こうした要件を事前に定義し、見積もりの段階からきちんとチェックすれば、導入後の「こんなはずじゃなかった…」を防げます。

Q7. システム導入後に使われなくなるケースがあると聞きますが、回避策はありますか?

A.
導入しても現場が使わないまま放置されるケースは意外と多いです。原因の多くは、「導入目的やメリットが現場に浸透していない」「当事者意識が薄い」ことにあります。下記のようなポイントに留意すると、回避しやすくなります。

  1. 目的とメリットの共有
    • 経営層・システム部門だけでなく、ユーザー部門もプロジェクトに巻き込む
    • 「このERPを使うと、あなた(現場)にどんなメリットがあるのか」を示す
  2. 導入プロセスへの参加
    • 現場メンバーが要件定義やテストに参加することで、自分たちが“選び・作り上げた”実感を得る
  3. 操作しやすさへの配慮
    • 必要最小限のカスタマイズやUI設計、教育・マニュアル整備などで「使いやすさ」を追求
  4. 継続的なフォローアップ
    • 導入後も問い合わせ窓口や定期的な利用状況チェックの仕組みを設け、課題を早期にキャッチ

これらを徹底することで、システムが現場に根付きやすくなり、放置・形骸化のリスクを軽減できます。

まとめ

本セミナーでは、ERP選定の基礎として、ERPの基本概念、選定の流れ、要求定義の重要性、よくある失敗とその原因、そして選定・導入を成功に導くための要素について解説しました。

特に重要となるのは、ユーザー企業の主体性です。ERP導入プロジェクトを成功させるためには、IT知識も重要ですが、それ以上にユーザー企業自身が主体的に関与し、責任を持ってプロジェクトを推進していくことが不可欠です。

ERP選定は、企業にとって重要な投資であり、その成否は企業の将来に大きな影響を与えます。本セミナーで解説した内容を参考に、自社にとって最適なERPを選定し、導入を成功させることを願っています。

GPTechでは、今後、RFIやRFPの作成方法、ベンダーの評価・選定方法など、より具体的なノウハウを提供するセミナーを予定しています。また、ERP選定や導入に関する無料相談会も随時受け付けておりますので、お困りの際はお気軽にお問い合わせください。

この記事の編集者

柳元 華奈

柳元 華奈

北京大学日中通訳専門修士卒。日本経済の活性化を目指し、日本のIT変革やアジアとの架け橋となるべく、(株)グローバル・パートナーズ・テクノロジーに新卒入社。 主に民間企業のシステム刷新プロジェクトに従事し、同社のPR・マーケティング全般の業務やIT調達ナビの運営業務にも携わる。

この記事をシェアする