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ERP選定とベンダー評価ー最適なERPを選ぶための観点やコツを伝授ー|開催レポート

はじめに

2025年4月7日、株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジー(GPTech)主催のセミナー「ERP選定とベンダー評価」が開催されました。

近年、業務効率化やデータ一元管理の必要性から、多くの企業がERPの導入を検討しています。しかし、導入プロジェクトには様々な課題が潜んでおり、選定段階での失敗がプロジェクト全体の成否を左右することも少なくありません。

本セミナーでは、数多くのITプロジェクトの支援実績を持つGPTechのコンサルタント小堀が登壇し、ERP選定における失敗事例や選定時のポイント、評価観点について解説しました。

GPTechの事業紹介

GPTechは「ユーザー企業の価値追求」を行動原理とする独自のビジネスモデルを展開しています。

システム会社との利害関係を持たず、ユーザー企業とのみパートナーシップ契約を結ぶことで、ユーザー企業の発注体制強化を最優先事項としています。

特定のシステムとの紐づきは一切ない、中立的なコンサルティング事業を展開しております。

ERP選定のよくある失敗

ERPの導入を失敗に導く要因は様々ですが、多くの企業が陥りがちな典型的なパターンがあります。これらのパターンを事前に把握しておくことで、同じ失敗を繰り返さないようにすることが重要です。

失敗事例①:導入後に「思っていたのと違う!」となったケース

A社は、導入実績の多い有名ERP、知名度を重視して選定しました。選定プロセスは順調に進み、導入が決定しましたが、実際に運用を開始してみると想定外の問題が発生・・・

標準機能では自社の業務フローに対応できず、カスタマイズが必要になりました。当初は小規模な修正だけを想定していましたが、業務要件を満たすために次々と追加開発が発生。結果的に、追加カスタマイズ費用が当初予算の2倍に膨れ上がり、大幅な予算オーバーとなりました。

さらに深刻な問題として、カスタマイズによってシステムが複雑化し、現場担当者が使いこなせなくなり、結局、多くの業務がシステム外のExcel運用に逆戻りし、本来目指していた業務効率化どころか、かえって作業負担が増加するという皮肉な結果となりました。

要注意ポイント:知名度や導入実績だけでなく、自社の業務プロセスとの適合性を十分に検証することの重要性です。

失敗事例②:価格重視で選び、サポートに問題が発生したケース

B社は、複数の候補の中から最も安価なERP、価格面を重視して選定しました。初期費用を抑えられることが決め手となり、他の要素については十分な検討を行いませんでした。

導入後しばらくは問題なく運用できていましたが、システムトラブルが発生した際に深刻な課題が表面化しました。ベンダーのサポート対応が遅く、問い合わせに対する回答も不十分で、業務が数日間停止する事態に発展しました。

価格を抑えられた主な理由は以下の2点でした:

⑴初期費用を抑える代わりに運用費用に上乗せする料金体系を採用していたため、長期的には割高になっていました。

⑵サポート範囲を限定的にすることで運用費用を削減していたため、緊急時の対応が不十分でした。

この業務停止により、B社は納期遅延や顧客対応の遅れなど業績にマイナスの影響が生じ、結果として安価なERPを選んだことで高いコストを支払うことになりました。

要注意ポイント:コストにおいては、初期費用だけでなく、運用費用やサポート体制を含めた総合的なコストを評価することが重要です。また、自社が求めるサービスレベルを明確にし、サポート契約の内容を詳細に確認することも必要です。

ERP選定時のポイント

ERPとベンダーを選定する際には、多角的な評価が必要です。製品の機能面だけでなく、非機能要件やベンダーの信頼性、サポート体制、そして費用対効果まで、総合的に判断することが重要になります。

調達目的をブレさせない

ERPの選定において最も重要なのは、なぜERPを導入するのかという目的を明確にし、その目的をぶらさないことです。選定の過程で様々な情報に触れると、当初の目的を見失いがちになりますが、常に原点に立ち返ることが大切です。

「業務要件8割」・「価格2割」で選ぶ

価格だけでなく、業務要件への適合度を重視することが重要です。特に業務要件に8割、価格に2割程度の比重を置くことが推奨されます。安いシステムを選んだ結果、業務に合わないシステムを導入してしまうと、長期的にはコスト増につながります。

ERP製品の「選択肢」を広げすぎない

多くのERP製品を比較検討すると、選定のプロセスが複雑になり、時間もかかります。最初から3~5社程度に絞り込んで詳細な評価を行うことが効率的です。

ベンダーの「サポート品質」を選定基準に入れる

導入後のサポート体制は非常に重要です。サポート内容を具体的に確認するために、同業種や同規模の企業での導入事例や、サポート体制の詳細を事前に確認しましょう。

選定時に「スケジュールとリスク」を事前に評価

導入スケジュールとリスクを事前に評価することで、プロジェクトの遅延やトラブルを防ぐことができます。特に、ベンダーの提案するスケジュールが現実的かどうかを見極めることが大切です。

 「カスタマイズ依存」に注意する

ERPはパッケージソフトウェアであり、過度なカスタマイズはコスト増やアップデートの障害となります。原則として標準機能で対応できることは標準機能を使用し、カスタマイズは必要最小限に留めるべきです。

ERP評価の観点

ERPとベンダーを選定する際には、多角的な評価が必要です。製品の機能面だけでなく、非機能要件やベンダーの信頼性、サポート体制、そして費用対効果まで、総合的に判断することが重要になります。

製品の評価

製品を選定する際には、業務への適合性はもちろん、システムとしての信頼性や将来性も重要な評価ポイントとなります。ERPは長期的に使用するシステムであるため、現時点での機能だけでなく、将来的な拡張性や保守性についても考慮する必要があります。

「機能」適合性の評価

  • 業務要件の適合度:提案されたERPの標準機能で、どこまで自社の業務プロセスをカバーできるかを評価します。会計、販売管理、在庫管理、生産管理など、必要な業務領域の機能が網羅されているかをチェックします。カスタマイズが必要な場合はその範囲とコストを見極めましょう。
  • 既存システムとのデータ連携・API対応:現在の業務システムとERPがスムーズに連携できるか、APIやデータ連携機能が十分かを評価し、追加開発の必要性を判断しましょう。
  • 業界特有の要件への対応力:自社の業界特有の業務要件に対応しているかを評価します。例えば、製造業であれば製造工程管理、小売業であればPOSとの連携など特定の業界に求められる機能が標準で備わっているかを確認しましょう。
  • レポート・BI機能の充実度:経営判断のためのデータ分析・可視化機能が充実しているか、必要なKPIをリアルタイムで把握できる仕組みがあるかを評価しましょう。
  • 将来のバージョンアップ・ロードマップ:ERP製品の継続的な開発・アップグレード計画があるか。今後の機能拡張性を考慮して評価しましょう。

特にここが大事!

  • 業務要件への適合度

ERPの標準機能との適合度が高く、できるだけ追加開発が不要であることが求められます。

なお、追加開発の検討が必要な場合であっても、開発規模は小さいことが望ましいため、システムにあわせて業務を見直すことで対応できるか、それともシステム開発をしなければ業務効率に致命的な影響を与えるかを判断し、本当に「追加開発」が必要かどうかの見極めをすることが求められます。

「非機能」適合性の評価

  • システム性能:業務データの処理速度や大量データ処理時のパフォーマンスが問題ないか、将来的な拡張性が確保されているかを評価しましょう。
  • UI/UX(ユーザーの使いやすさ):業務担当者が直感的に操作できるUIか、業務効率を向上させるデザインかを確認し、現場の負担を最小限に抑えられるかを評価しましょう。
  • セキュリティ・コンプライアンス対応:個人情報や機密データの取り扱いが適切か、国内外の法規制や社内のセキュリティ基準に準拠しているかを確認しましょう。
  • 可用性:システム障害発生時の復旧時間やデータ損失許容範囲、災害対策などが適切に設計されているかを評価しましょう。
  • 運用管理機能:運用担当者が容易に管理・監視できる機能があるか、ログ管理や権限設定が柔軟にできるかを確認しましょう。
  • クラウド・オンプレミスの選択:どちらが自社に適しているか、運用コストやセキュリティリスクを考慮して選定しましょう。

特にここが大事!

  • セキュリティ・コンプライアンス対応

特にERP等のパッケージ型の製品は、セキュリティやコンプライアンスの要件を後から変更できない

ケースが多いため、自社の基準や規程で許容できる内容になっているかを、早い段階で確認する

ことを強く推奨しています。

変更できない要件が適合しない場合、早期に候補製品から外すことができるため、製品評価についての余分な労力を削減することが可能です。

パートナー(メーカー・導入ベンダー)の評価

導入計画の評価

  • 提案された導入期間の妥当性:ベンダーが提示する導入スケジュールが現実的か、短期導入に無理がないかを確認しましょう。
  • 業務影響への配慮:業務の繁忙期と重ならないか、段階的な導入が可能かを検討しましょう。
  • データ移行計画の実現性:既存データの移行計画が現実的であり、業務に影響を与えずに移行できるかを確認しましょう。
  • ユーザー研修・テスト期間の確保:ERPの本番稼働前に、ユーザーが業務に適応できるかを確認するための研修やテストの期間が確保されているかを評価しましょう。
  • 想定外の遅延に備えたバッファの有無:想定外の遅延が発生することを考慮した計画になっているかを評価しましょう。

特にここが大事

  • 想定外の遅延に備えたバッファの有無

ERPの導入が最初から最後まで、スケジュール通りに進むことはまずありません。

スケジュールにおいて「想定外に対応できるバッファ(余裕)の期間が考慮されているか」どうかを確認しましょう。

「プロジェクトを進めるための経験」や「想定外の事象の発生」に関する考え方など、ベンダーの力量を推し量ることが重要です。

継続性の評価

  • 企業の安定性・実績:企業規模や経営状況、導入実績を確認し、継続的な製品開発とサポートが期待できるかを判断しましょう。
  • 導入支援・コンサルティング力:導入時の業務改善コンサルティングやプロジェクトマネジメントの実績を確認し、スムーズな導入が可能かを評価しましょう。
  • サポート体制:システム障害時の対応スピードやサポート窓口の対応品質、契約上のSLA(サービスレベル契約)を確認しましょう。
  • パートナー企業の支援体制:ERP導入・運用を支援するパートナー企業の実績やスキルを確認し、適切なサポートが受けられるかを検討しましょう。
  • 他社導入事例・評判:他社での導入実績や評判を確認し、成功事例・失敗事例を踏まえてリスクを見極めましょう。

特にここが大事!

  • 企業の安定性・実績

製品メーカーや導入ベンダーがサービスを継続できるかを評価します。

選定をする際には企業規模、経営状況、導入実績などを総合的に判断し、突然サービスを受けられなくなるリスクがないかどうか確認しましょう。

費用対効果の評価

コストの評価

  • 初期導入費用:ライセンス費用、インフラ整備費、導入支援コストを総合的に確認し、初期投資として適正かを判断しましょう。
  • ランニングコスト:システム運用・保守費用が継続的にどれくらい発生するかを試算し、長期的なコスト負担が適切かを評価しましょう。
  • 追加ユーザー・追加機能の課金モデル:追加ユーザー数や機能追加時の課金体系を確認し、将来的なコスト増加のリスクを見極めましょう。
  • 5年間の総所有コスト:初期費用と運用費を含めた5年間の総所有コストを算出し、他のERPと比較することで費用対効果を判断しましょう。
  • 費用対効果:ERP導入による業務効率化やコスト削減効果を定量的に分析し、投資に見合ったリターンが得られるかを検討しましょう。

特にここが大事!

  • 5年間の総所有コスト/費用対効果

SaaS(サービス提供型)とオンプレミス型(ソフトウェア買い切り型)など、コストの単純比較が難しいケースがあるため、初期費用だけでなく、オプション料を含めた運用費用をふくめた5年間の総所有コストで判断されることを推奨しています。

また、ERPを導入することによりコスト削減や業務効率化が期待できる場合には、それらのプラス要素を加味したうえで総合的に判断することで、目先のコストに目を奪われないことが重要です。

ERP選定成功のための重要な考え方

ERPの選定と導入を成功させるためには、技術的な知識やスキル以上に重要な要素があります。それは、プロジェクトに関わる人々の意識と姿勢です。

特に、ユーザー企業側が当事者意識を持ち、主体的に取り組むことが成功の鍵となります。

メーカーや導入ベンダーに全てを任せるのではなく、自分ごととして捉え、責任を持って意思決定をリードすることが重要です。

メーカーや導入ベンダーを選定した瞬間に全て丸投げし、言ったことは間違いがないと思い込んでしまうなど、主体性を失うことがよくあります。

また、社内においても、ユーザー部門が「システム部門がなんとかしてくれるだろう」と思ってしまうことがあります。こうした姿勢では高い確率で失敗してしまいます。

 

まずは、自分ごととして捉え、ユーザー企業が主体性を持って進めることが必要になります。

これは、外部のベンダーに頼りすぎるのではなく、あくまでも自分たちで選んでいくという強い意識が必要であるということです。

システム部門だけでなく、ユーザー部門も巻き込み、当事者意識を持たせることが、システムが実際に活用されるための鍵となります。

質疑応答

セミナーの最後には、参加者からの質問に対する回答がありました。その中から特に重要なポイントをいくつか紹介します。

Q1:カスタマイズが必要な場合、どこまで対応すべきですか?

A:原則として標準機能で対応できることは標準機能を使用することを強く推奨します。開発を加えるとコストやリスクが増大するため、業務上必要な部分だけに限定し、開発は最小限に留めるべきです。カスタマイズの判断基準として、その業務が競争優位性を生み出すか否かという観点も持っておくとよいでしょう。

Q2:ERPと個別の業務システムとの違いは何ですか?

A:ERPは業務データやシステムを統合的に管理するシステムで、1つで全てが完結できるというメリットがあります。一方、個別の業務システムは特定の業務に特化したシステムですが、システム間の連携が取りづらいという傾向があります。最近のトレンドとして、個別の業務システムのメリットを生かしつつ、データ連携でシステムを繋ぎ合わせる「ポストモダンERP」という手法も出てきています。

ポストモダンERPについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

Q3:ERP導入時の現場担当者からの抵抗にどう対応すれば良いですか?

A:早い段階から説明会やワークショップを開催し、導入のメリットを具体的にユーザーに伝えることが重要です。特に、ユーザー側のメリットを具体的に伝えることが大切です。また、導入後や導入期間中の教育やトレーニングに力を入れ、システムに慣れてもらうことも重要です。ただし、どんなに便利になっても、メリットがあったとしても、ある程度の抵抗は避けられないことを念頭に置いておくことも大切です。

Q4:ERPの導入にはどれくらいの期間がかかりますか?

A:システムの規模や導入範囲によって異なりますが、一般的には半年から1年半程度が多いです。

小規模な場合は半年から9ヶ月、中規模以上になると1年以上かかることが多いでしょう。選定だけでも3ヶ月から半年かかることもあるため、導入を検討する際は余裕を持ったスケジュールを組むことが大切です。

まとめ

本セミナーでは、ERP選定で大切なのは、ITの知識だけでなく、導入までの流れを理解し、要求をきちんとまとめ、自分ごととして取り組むことの3点です。特に、ユーザー企業の主体性を持ち、責任を持って意思決定をリードすることが成功の鍵となります。

このような基本的な考え方を念頭に置いて選定を進めることで、ERPの導入プロジェクトを成功に導くことができるでしょう。

GPTechは、特定の紐づきのシステムはない真に中立的なコンサルティングサービスを提供しています。ERP選定や導入に関する無料相談会も随時受け付けておりますので、お困りの際はお気軽にお問い合わせください。

この記事の編集者

柳元 華奈

柳元 華奈

北京大学日中通訳専門修士卒。日本経済の活性化を目指し、日本のIT変革やアジアとの架け橋となるべく、(株)グローバル・パートナーズ・テクノロジーに新卒入社。 主に民間企業のシステム刷新プロジェクトに従事し、同社のPR・マーケティング全般の業務やIT調達ナビの運営業務にも携わる。

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