業務・IT担当者がおさえるべきDX推進の現状と課題:政府動向から解説
政府は、デジタル社会実現を推進するため、各府省庁をはじめとする公共組織や民間企業の取組を促進することを目的とした政策・施策を展開しています。
このような中、多くの組織でデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性を認識し、取組を推進しているものの、多くの課題を前にして、芳しい結果を出すことのできている組織はまだ少ないというのが現実ではないでしょうか。
このような現象が生じる理由には、様々な課題があることが指摘されています。それらの課題を解決するためには、組織におけるDX推進の意義を再認識し、より効果的な戦略を採用する必要があります。
本記事では、DX推進の意義を理解するために必要な政策の概要やその課題について解説していきます。
世の中の流れを把握し、自組織で打ち立てた方針の妥当性を判断する材料とするための情報収集にご活用ください。
目次
1. 政府の推進する政策の概要
近年、デジタル技術が急速に発展し、社会のあらゆる分野でその活用が求められています。
そこで、政府はDX政策を推進し、国内外の競争力を高めるため、デジタル化による効率化やイノベーションを促進しています。その中でも、特に注目すべき政策は、「デジタル社会形成基本法の施行」、「デジタル庁の発足」、「デジタル社会実現に向けた重点計画の策定」です。
1-1. デジタル社会形成基本法の施行
「デジタル社会形成基本法」は、2021年9月、IT基本法の後継法として、日本政府がデジタル社会の実現を目指す為に推進する政策の一環として制定された法律です。
この法律は、「ゆとりと豊かさを実感できる国民生活の実現、国民が安全で安心して暮らせる社会の実現、利用の機会等の格差の是正、個人及び法人の権利利益の保護等」を基本理念として、デジタル社会の実現に向けた施策策定に関する基本方針、国、地方公共団体及び事業者の責務などについて定めています。
1-2. デジタル庁の発足
「デジタル庁」は2021年9月、デジタル庁設置法に基づき発足した組織です。この庁は、デジタル技術の利用促進、デジタル社会実現に向けた課題解決など、「デジタル社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進すること」を目的として設置されました。
参考:デジタル庁 「プレスルーム – デジタル庁発足式」
1-3. デジタル社会実現に向けた重点計画の策定
「デジタル社会実現に向けた重点計画」は、2021年12月、各府省庁が構造改革や施策に取り組む際の羅針盤とすることを目的に策定されました。この重点計画には、「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」で掲げたビジョンである「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を実現する為に必要とされる施策が示されています。
また、デジタル庁は、サービス・業務改革並びにこれらに伴う政府情報システムの整備及び管理についての手続・手順や、各種技術標準等に関する共通ルールや参考ドキュメントを公開しています。
2. DX推進の課題
前述の通り、政府はデジタル社会実現に向けた環境整備を加速しています。しかしながら、各組織において進めてみると多くの課題が見えてきました。経済産業省が公開しているDXレポートによれば、DX推進の課題は「既存システムの老朽化」、「人材の不足」、「ユーザー企業とベンダー企業(システム開発会社)の関係性」に大別されるとのことです。詳しく見ていきましょう。
2-1. 既存システムの老朽化
日本情報システム・ユーザー協会(以下、JUAS)の調査結果(2017年)によれば、レガシーシステム(古い技術が使われているが今も使われ続けているソフトウェア、ハードウェア)を利用している企業の約7割が、老朽化したシステムの存在をDX推進の妨げの一因に挙げています。JUASの調査結果(2022年)においても「老朽化システムのモダナイゼーション(古くなったハードウェアやソフトウェアを、最新の製品や設計に置き換えること)」について成果を実感している企業は1割程度であり、依然として課題解消には至っていない状況にあります。
JUASの企業IT動向調査報告書で言及されている、レガシーシステムについて以下の記事で詳しく解説しています。
DX推進時の取り組みとは
DX推進に必要と言われている施策には、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーション3つがあります。
一般的には①デジタイゼーション、②デジタライゼーション、③デジタルトランスフォーメーションの順序で取組みを進めていきます。上述にある「朽化システムのモダナイゼーション」
は①デジタイゼーションにおける取組の一環です。
また、IT投資関連の予算の大半をレガシーシステムの維持管理のために支出せざるを得ない状況も相まって、現在においても多くの企業で、「複雑化したシステム」、「予算確保」、「要員確保」、「事業部門の理解」、「経営者の理解」などの問題を抱えており、DX推進の阻害要因となっています。
参考:経済産業省 「DXレポート」「DXレポート2.0」、「DXレポート2.1」、「DXレポート2.2」
参考:JUAS 「デジタル化の進展に対する意識調査 2017」、「企業IT動向調査報告書 2022」
2-2. 人材の不足
多くの企業でDX推進の重要性が認識される中、それを推進する人材が不足しています。
JUASの調査結果(2022年)によれば、DX推進の要となる「IT戦略担当」、「企画担当」に係る人材について「概ね充足」と考えている企業は3割程度と低位な状況にあります。
この状況は、単に少子高齢化社会の到来による人口動態上の問題ということではなく、IT戦略の立案・推進ベンダー企業に委託することをスタンダードとしてきた日本特有の産業構造に起因する「人材育成機会の逸失」によって引き起こされているものともいえます。
※アメリカでは、DX推進を担うことのできる人材のうち約7割がユーザー企業側で働いているのに対し、
日本においては約7割がベンダー企業で働いているという真逆の状況となっています。こうした状況が
日本国内においてDX推進時のベンダー企業依存度を高めており、ユーザー企業のみではDX推進
が 進めにくい状況を生み出しているとも言えます。
参考:経済産業省 「DXレポート」、「DXレポート2.0」、「DXレポート2.1」、「DXレポート2.2」
参考:JUAS 「企業IT動向調査報告書 2022」
2-3. ユーザー企業とベンダー企業の関係性
DXレポートでは、ユーザー企業とベンダー企業は「低位安定(※)」、「相互依存」の関係にあると指摘されています。この関係性が継続されてしまった場合、ユーザー企業、ベンダー企業においては、以下の問題を抱え続けることになります。
ユーザー企業の抱える問題
- ITへの対応能力が育たない
- システムのブラックボックス化
- ベンダーロックイン
- 旧態依然としたビジネスから脱却できない
ベンダー企業の抱える問題
- 低収益
- 生産性向上へのインセンティブの欠如
- 提案力の低下
※低位安定とは
ベンダー企業が既存の製品やサービスに固執し、低い付加価値しか提供できず、市場競争力を失っている状態を指します。つまり、新しいテクノロジーやビジネスモデルに取り組むことができず、顧客ニーズや市場変化に対応する能力が不十分な状態となってしまうことを表しています。
DXレポートでも言及されている通り、変革の推進にあたっては、克服が困難だと思われるジレンマ(「危機感のジレンマ」「人材育成のジレンマ」「ビジネスのジレンマ」)を抱えることになります。しかしながら、これらのジレンマに対処しない限り、「デジタル社会」も実現せず、企業・組織としての「競争力の低下」に繋がってしまうことが危惧されています。
3. まとめ
DX推進には、「既存システム」、「人材」、「ユーザー企業とベンダー企業の関係性」、各々の観点において克服しなければならない課題が山積しています。どの課題に対しても個別具体的な原因はありますが、日本国内の雇用慣習やIT業界の構造上の問題が原因となっているものについては一組織の努力で解決に導けるものではありません。ここでは個々の組織で戦略を立てることが可能な「人材」の課題に焦点を当て、解決策の方向性を提示します。
- 人材育成への対応の強化
DX推進には人材育成の取り組みを強化する必要があります。そのためには、内部研修や外部講習の実施、社員のキャリアアップ支援などが必要となります。
- 外部人材の活用
自組織にDXを推進できる人材がいないなどの問題を抱えている場合は、外部人材の活用を検討することも重要です。外部人材の採用には、コンサルタントや人材紹介会社の活用などが挙げられます。
- 組織文化の改善
DX推進に必要な人材を確保するためには、魅力的な組織文化の整備が必要です。そのためには、社員が自ら学ぶことができる環境を整備し、チームワークを重視した働き方や、柔軟な働き方を実現するための制度改善などが必要です。
- ベンダー企業との協業強化
DX推進には、ベンダー企業との協業が欠かせません。ベンダー企業の技術やノウハウを取り入れることで、DX推進のスピードアップが可能になります。そのためには、信頼できるベンダー企業の選定が必要です。
これらの施策を実行するには、まずは自組織における課題を適切に把握することが重要です。改めてこれまでの取組みを振り返ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。