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リスク

情報セキュリティにおける「リスク」とは、組織の情報資産に対する脅威が、脆弱性を利用して実際に損害を与える可能性のことを指します。

リスクの概念は、組織が限られた資源を効果的に配分し、最も重要な脅威に対処するために不可欠です。

近年のデジタル化の加速と共に、サイバー攻撃の脅威が増大しており、リスク管理の重要性が高まっています。

適切なリスク評価によるリスク管理により、組織は潜在的な損失を最小限に抑え、事業継続性を確保することができます。

リスクの構成要素は以下のとおりです。

  1. 脅威:情報資産に損害を与える可能性のある要因
  2. 脆弱性:脅威に対する弱点や欠陥
  3. 資産価値:保護すべき情報資産の重要度

情報セキュリティの文脈で使用される関連用語があります。

  • リスクアセスメント:リスクを特定、分析、評価するプロセス
  • リスク対応:リスクに対処するための戦略(回避、低減、移転、受容)
  • リスクアペタイト:組織がどの程度のリスクを許容できるかを示す指標

上記の関連用語のうち、リスク対応について補足します。

リスク対応は、識別されたリスクに対して適切な行動を取るプロセスです。

一般的に、以下の4つの主要な戦略があります。

  1. リスク回避
    定義:リスクを生み出す活動や状況を完全に排除する戦略
    例:機密データを含むシステムをインターネットから完全に隔離する
    メリット:特定のリスクを完全に除去できる
    デメリット:ビジネス機会の損失や運用効率の低下を招く可能性がある
  2. リスク低減
    定義:リスクの影響や発生確率を低減させる戦略
    例:ファイアウォールの導入、従業員向けセキュリティ教育の実施
    メリット:コストと効果のバランスが取りやすい
    デメリット:リスクを完全には除去できない
  3. リスク移転
    定義:リスクの一部または全部を他の組織に移転する戦略
    例:サイバーセキュリティ保険への加入、クラウドサービスの利用
    メリット:財務的影響を軽減できる
    デメリット:コストがかかる、責任の所在が不明確になる可能性がある
  4. リスク受容
    定義:リスクをそのまま受け入れ、結果に対応する準備をする戦略
    例:影響が小さいリスクを許容し、監視を続ける
    メリット:リソースを重要なリスクに集中できる
    デメリット:予期せぬ損失が発生する可能性がある

リスク対応戦略は、以下の要因を考慮して行われます。

  • リスクの重大性と発生確率
  • 対応にかかるコストと期待される効果
  • 組織のリスクアペタイト
  • 法的要件やコンプライアンス基準

また、リスク対応の手順は以下のとおりです。

  1. リスク対応計画の策定
  2. 対応策の実施
  3. 対応策の有効性の評価
  4. 必要に応じた計画の見直しと調整

リスクは、単に技術的な問題ではありません。

人的要因、物理的セキュリティ、法規制なども含む総合的な概念です。

また、リスクゼロを目指すことは現実的ではなく、適切なリスク管理とは、組織の目標達成とリスク低減のバランスを取ることです。

リスク管理は継続的なプロセスであり、定期的な見直しと更新が必要です。組織の内部環境や外部環境の変化に応じて、新たなリスクが発生したり、既存のリスクの重要度が変化したりするためです。

効果的なリスク管理を通じて、組織は情報セキュリティ対策の最適化を図り、ビジネスの成長と革新を支える強固な基盤を構築することができます。

よくある質問

リスクの発生確率と影響を考慮して優先順位を付けることは、実務上どう役立つでしょうか?

リスクはすべてを同じ重みで扱うのではなく、発生確率と影響度の組み合わせに基づいて優先順位を付けることが重要です。

これにより、限られたリソースを効果的に配分し、重大な損失を未然に防ぐことが可能になります。

1. 重大リスクへの集中対応

発生確率が高く、影響度も大きいリスクは「重大リスク」として優先的に対応すべき対象となります。優先度を付けることで、組織の資源を最も損害の大きい領域に集中でき、効率的なリスク管理が可能となります。

2. 軽微リスクの過剰対応を防止

発生確率が低く影響度も小さいリスクは、対応コストをかけるよりも受容する方が合理的な場合があります。優先順位付けを行うことで、重要度の低いリスクに不必要な時間や費用を費やすことを避けられます。

3. リスクマトリクスによる可視化

発生確率と影響度を軸としたリスクマトリクスを用いれば、関係者間での認識を揃えやすくなります。これにより、経営層や実務部門が共通の判断基準を持ち、合意形成を円滑に進められます。

4. 予算・納期への波及防止

重大リスクを早期に特定し対応することで、後工程での仕様変更や障害による大規模な遅延を防ぎ、結果的に予算超過や納期遅延の抑制につながります。

このように、リスクを発生確率と影響度で評価して優先順位を付けることは、リスク管理の効率性と実効性を高め、限られたリソースで最大の効果を得るために不可欠といえます。

リスクアセスメント(特定・分析・評価)のプロセスを実施することは、発注者にとってどのようなメリットがあるでしょうか?

リスクアセスメントを行うことは、発注者が潜在的なリスクを事前に把握し、調達やプロジェクトの進行を安定させるうえで大きなメリットをもたらします。

特に「特定・分析・評価」という体系的なプロセスを踏むことで、感覚や経験に頼らない客観的な判断が可能になります。

1. 潜在リスクの早期把握

リスクを特定することで、これまで見落としていた潜在的なリスクを可視化できます。早期に把握することで、重大な問題に発展する前に予防的な対応を検討できます。

2. リスクの影響度を定量的に評価

リスクの発生確率と影響度を分析することで、どのリスクを優先的に管理すべきかを明確化できます。これにより、重要なリスクに集中してリソースを配分でき、無駄な対応コストを抑制できます。

3. 契約や調達条件への反映

リスクの評価結果を踏まえることで、契約時に必要な条項(責任分担や違約金条件など)を具体的に定めやすくなります。発注者があらかじめリスクを想定しておけば、契約トラブルを防止する効果があります。

4. 意思決定の透明性向上

リスクアセスメントの結果をドキュメント化して関係者と共有することで、意思決定の根拠を明確にできます。これにより、経営層・利用部門・ベンダー間での合意形成が円滑になります。

このように、リスクアセスメントを実施することは「早期把握」「優先順位付け」「契約条件の適正化」「合意形成の促進」といったメリットを発注者にもたらし、プロジェクト全体の安定性を高めることにつながります。

リスクアペタイト(許容リスク)の設定を行うことは、組織運営やプロジェクトにどのような影響をもたらすでしょうか?

リスクアペタイト(許容リスク)を設定することは、組織がどの程度のリスクを受け入れられるかを明確にし、意思決定やプロジェクト運営を安定させるうえで重要です。これを定義しないと、対応の過不足や関係者間の判断のばらつきが生じ、組織全体の統制が取りにくくなります。

1. 判断基準の統一

リスクをどこまで許容できるかを明確にすることで、経営層・実務担当者・ベンダーが共通の基準で意思決定を行えます。これにより、過度な慎重姿勢や逆に安易な判断を防ぐことができます。

2. 効率的な資源配分

すべてのリスクに対応することは現実的ではありません。許容範囲を定めることで、対応が必要な領域に重点的にリソースを投入でき、コストや時間の最適化につながります。

3. 経営戦略との整合性確保

リスクアペタイトは単なるリスク管理の指標ではなく、組織の戦略目標と整合させることが求められます。例えば、新規事業に挑戦する企業は一定のリスクを受容する必要があり、その姿勢を明示することで組織全体の方向性が揃います。

4. プロジェクト運営の安定化

プロジェクトにおいて許容リスクを設定しておけば、想定内のトラブルに過剰反応せず、あらかじめ合意した範囲で進行を維持できます。これにより、進行管理や関係者調整がスムーズになります。

このように、リスクアペタイトを設定することは「判断基準の統一」「効率的な資源配分」「経営戦略との整合性」「プロジェクト運営の安定化」といった効果をもたらし、組織やプロジェクトの持続的な安定に寄与します。

この記事の編集者

下里 朋子

下里 朋子

自治体で情報政策分野を9年間担当した後、IT調達ナビの運営会社である(株)グローバル・パートナーズ・テクノロジーに中途入社。ITコンサルティング業務に従事しつつ、IT調達ナビでシステム発注に役立つ記事を展開するメディア運営業務にも携わる。

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