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ITグランドデザインとは?IT戦略との違いや必要性、成功に導くステップについて解説!

組織においてIT戦略の策定に関わる職務に従事している方は、「ITグランドデザイン」について議論されることも多いでしょう。しかし、その解釈は千差万別であり、具体的な意味や重要性についてはあまり共有されていないことも多く見受けられます。

 

本記事では、改めてITグランドデザインの基本概念と、その必要性についてわかりやすく解説します。
以下のような課題をお持ちの方はぜひご一読ください。

 

  • 経営層・経営企画部門 :全社のIT戦略を経営ビジョンと連動させ、中長期的な計画を立てたい方。
  • IT部門のマネージャー :システムの分散やデータの不整合を解消し、統合的なIT基盤を構築したい方。
  • 事業部門のリーダー・PM :部分最適に留まらない長期的な効果を見据えた計画を策定したい方。

 

1.   ITグランドデザインの概要

 

1-1. ITグランドデザインとは

ITグランドデザインとは、IT戦略の一部を構成する計画や構想を指します。ITグランドデザインは、企業全体のビジョンを踏まえ、IT戦略に示された方向性を基に、IT基盤やアーキテクチャーの具体的な方向性を定義する役割を担います。

 

1-2. IT戦略との違い

一般的なIT戦略は、企業の中長期的なビジョンに基づいて策定される計画であり、その中でITグランドデザインは、具体的なIT全体構想を示す設計図としての役割を果たします。

 

IT戦略の概要と特徴

  • 概要

IT戦略は、企業のビジョンや経営戦略を達成するために、ITをどのように活用するかを定めた3年~5年の中期的な計画です。システムの導入といった技術的側面だけでなく、組織戦略や人材戦略といった戦略的側面もその範疇に含みます。

 

  • 特徴
    • 具体的なシステム導入や技術選定、組織戦略、人材の採用・育成などに関する計画である
    • 業務効率化やコスト削減、競争優位性の強化などを目的としている
    • 部門ごとに策定される場合もある(例:営業部門向けCRM導入)

 

ITグランドデザインの概要と特徴

  • 概要

ITグランドデザインは、IT戦略の中で5年~10年の中長期的なITの全体構想を示す設計図の役割を担います。また、IT戦略で定めた計画を基に、企業全体のIT基盤やアーキテクチャー、データ統合の具体的な構想を定めます。

 

また、個別のIT投資計画も、このグランドデザインに基づいて実行されることが望ましく、これにより短期的な施策と長期的な目標が調和した形で進められるようになります。

 

  • 特徴

o  IT戦略で示された方向性に基づき、具体的なIT基盤やアーキテクチャーを設計する
o  システムやデータの全社的な統合を実現する計画を描く
o  部門横断的な視点で、IT戦略の実現を支える全体最適化を図る
o  個別のIT投資計画を一貫性のある方向性で進めるための指針となる

 

ITグランドデザインとIT戦略の関係性

IT戦略は、企業のビジョンに基づいて策定される中期的な計画であり、その一部を構成するのがITグランドデザインです。ITグランドデザインは、IT戦略で定めた計画をもとに、ITの全体構想を示す「設計図」としての役割を果たします。

 

例えば、IT戦略で「全社横断のデータを経営判断に活かす環境の実現」という計画が示された場合、ITグランドデザインでは「データプラットフォームの構築」といった実現に必要な要素を示した設計図を描きます。

 

なお、IT戦略が企業の短期~中期の優先課題に応じて柔軟に見直されるのに対し、ITグランドデザインは、企業のIT基盤整備や全体最適化の指針として、より長期的な視点を持ちます。

 

この違いにより、IT戦略は市場環境や技術進歩に応じて頻繁に調整される一方、ITグランドデザインは、安定した方向性を提供しながら、戦略の再調整を受け入れつつ全体構想を維持します。こうした役割分担が、IT活用の短期的な成果と長期的な整合性を両立させる鍵となります。

 

 

2.なぜITグランドデザインが必要なのか

 

ITグランドデザインを策定することで、各部門やプロジェクトにおける個別のIT投資計画に一貫性を保ち、全社最適を目指したIT投資を推進できます。以下の理由から、多くの企業ではITグランドデザインが求められています。

 

理由1. ビジネス環境の変化に対応するためのIT基盤整備

市場環境や顧客ニーズは急速に変化しており、それに対応するためには柔軟なIT基盤が不可欠です。特定の業務やシステムだけに焦点をあてるのではなく、中長期的なITグランドデザインに沿ってIT基盤を整備していくことで、変化に強い企業体制を築くことができます。

 

理由2. DXの成功に不可欠な要素

DXを成功させるためには、データの活用や業務プロセスのデジタル化が鍵となります。しかし、個別のシステム導入だけでは不十分であり、全社的なデータ統合や一貫性のあるアーキテクチャーが求められます。そして、これを支えるのがITグランドデザインの役割です。

 

理由3. 部門間のサイロ化の解消と全社横断のアーキテクチャー構築

多くの企業では、部門ごとに異なるシステムが導入され、データやプロセスのサイロ化が発生しています。これにより、業務効率が低下し、情報の断絶が生じます。ITグランドデザインは、このサイロ化を解消し、全社的に連携可能なアーキテクチャーを構築するための設計図となります。

 

(注記:サイロ化とは)

サイロ化とは、企業内で部門ごとにシステムやデータが独立して管理されている状態を指します。

 

サイロ化が進むと、部門間での情報共有が難しくなり、データの一貫性が失われることがあります。この結果、全社的な視点での意思決定が困難になり、業務の非効率化やITコストの増大を招く可能性があります。

 

3.ITグランドデザイン策定を成功に導く6つのステップ

 

ITグランドデザインは、IT戦略の一部として、企業の未来を形作る中長期的なITの全体構想を示す設計図です。その策定には、緻密な分析と全体を見据えた視点が求められます。ここでは、IT戦略の中でITグランドデザインを策定するための全体像を6つのステップに分けて解説します。

 

 

ステップ1.経営戦略やIT戦略を理解する

まず、企業の中長期的なビジョンやビジョンを実現するための経営戦略、IT戦略を理解することが最初のステップです。

 

この過程では、経営戦略とIT戦略の整合性を確認することに重点をおき、不明確な点については経営層とのディスカッション等を通じて確認します。

 

重要ポイント:経営層から現場まで共通の理解を形成し、経営戦略やIT戦略が示すITの役割・方向性を明確にする。

 

ステップ2.現状分析とギャップ分析

次に、現行のIT環境や業務プロセスを詳細に分析します。

 

システムの棚卸しや、データの流れ、業務プロセスの整理を行い、現状の課題を洗い出します。その後、理想の姿(To-Be像)とのギャップを分析し、解決すべき課題を明確化します。

 

重要ポイント:ギャップ分析により、現状のボトルネックや改善が必要な領域を可視化する。

 

ステップ3. To-Be像の設計

ITグランドデザインの中心となるのが、このTo-Be像の設計です。

 

企業全体のデータ統合や、部門横断的なシステム連携を考慮した理想的なIT環境の設計図を描きます。クラウドやAPI連携の活用、統合型ERP、ポストモダンERPなどの戦略もこの段階で検討します。

 

重要ポイント:将来の企業成長や技術進化に対応できる、柔軟で拡張性のある設計を心がける。

 

(注記:ポストモダンERPとは)
「ポストモダンERP」とは、従来の統合型ERPとは異なり、モジュールごとに柔軟に組み合わせられるシステム構成を指します。

 

従来のERPは、一つの大規模なシステムによって全業務をカバーする統合型のアプローチでしたが、ポストモダンERPでは、クラウドベースのSaaS(Software as a Service)やデータ連携基盤等を活用し、必要な機能だけを選択して導入することが可能です。

 

このため、業務ごとに最適なツールを選定できる一方で、システム間の連携やデータ統合の設計が重要になります。

 

 

ステップ4.ロードマップの策定

To-Be像を実現するための中長期的なロードマップを作成します。

 

優先度の高い施策から段階的に実行する計画を立て、具体的な実施フェーズやマイルストーンを設定します。

 

重要ポイント:リスクの最小化・現場の負担軽減を実現するために段階的なアプローチを採用する。

 

ステップ5.投資計画とリソース配分

ITグランドデザインを実行するためには、必要な予算とリソースを確保する計画が欠かせません。各フェーズでのコスト見積もりや、リソース(人材・技術)の配分を具体的に決めます。ROIの試算も行い、経営層への説明資料を準備します。

 

重要ポイント:費用対効果を明確にし、経営層の承認を得やすい投資計画を立てる。

 

ステップ6.進捗管理と継続的改善

ITグランドデザインは、策定して終わりではなく、継続的な見直しと改善が必要です。定期的に進捗を確認し、必要に応じて計画を修正します。外部環境や技術の変化に対応するために、柔軟な姿勢を保つことが重要です。

 

重要ポイント:進捗を可視化し、KPIを設定して効果を測定する。また、定期的なレビュー会議を実施して改善策を検討する。

 

4.ITグランドデザインで描く企業の将来像

 

ここまでの内容を踏まえて、ITグランドデザインを考える上で特に重要な3つのポイントをまとめました。

 

ポイント1. 変化に強いIT基盤を構築する

市場や技術の変化が急速に進む中、企業には柔軟でスケーラブルなIT基盤が求められています。ITグランドデザインを策定することで、システムの老朽化やデータのサイロ化といった問題に先手を打ち、将来の変化に迅速に対応できるIT環境を整備することが可能になります。

 

具体的な行動例

  • 既存のシステムやプロセスを棚卸しし、将来に向けた改善計画を立案する。
  • 長期的な視点でシステム連携やデータ統合を考慮したアーキテクチャーを設計する。

 

ポイント2. 企業全体のビジョンとITグランドデザインを一体化する

ITグランドデザインは、企業の経営ビジョンと一貫しつつ、IT戦略の策定における指針として機能することが重要です。

 

経営層の目指す方向性と、現場の実務担当者が求める機能や効率化をバランス良く反映させることで、全社的な共通目標が生まれます。このような、企業全体のビジョンとITグランドデザインの一体化が、IT投資の効果を最大化し、業務の最適化を促進することに繋がります。

 

具体的な行動例

  • 経営層、事業部門、IT部門が参加するワークショップを開催し、共通の目標を設定する。
  • ビジョンに沿ったKPI(重要業績評価指標)を定め、進捗を定期的にモニタリングする。

 

ポイント3. 中長期的な視点でIT投資を計画する

ITグランドデザインは、短期的なシステム導入の計画に終始せず、中長期的な成長戦略に基づいたIT投資の指針となります。優先順位をつけ、段階的にIT環境を整備することで、リスクを抑えつつ着実に目標達成に近づけることができます。

 

具体的な行動例

  • 長期的なロードマップを作成し、投資タイミングとリソース配分を計画する。
  • 定期的に計画を見直し、外部環境の変化に合わせて柔軟に対応する。

 

まとめ.将来の変化を見据えた第一歩

 

ITグランドデザインは、企業の未来を形作るための強力なツールであり、IT戦略の重要な構成要素となります。

 

しかし、策定するだけでは意味がなく、実行と継続的な見直しが重要です。特に、経営層のリーダーシップと全社的な協力体制が不可欠です。この記事を参考に、自社のITグランドデザイン策定の第一歩を踏み出し、将来の変化を見据えたIT基盤構築の推進に着手してみてください。

 

ITグランドデザイン策定のご相談はGPTechへ

ITグランドデザインは、企業の未来を見据えた重要な設計図です。しかし、その策定には緻密な分析と全体を見据えた視点が求められます。

 

GPTechでは、豊富な経験と専門知識を活かし、貴社のビジョンに合わせたITグランドデザインの策定を支援いたします。企業の成長に寄与する変化に強いIT基盤の構築を目指し、最適なアプローチでサポートいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

この記事の編集者

小原伸也

小原伸也

大学卒業後、総合リース業を主業とする企業に勤務。17年間にわたり、営業、企業審査、債権回収、人事など多岐にわたる業務に従事し、所属した各部門で業務システムの開発や導入プロジェクトをリードする。情報システムの企画・調達に関する知見を深め、より広範な価値提供を目指すため、2022年11月に(株)グローバル・パートナーズ・テクノロジーに参画。現在は、民間企業に対するITグランドデザイン策定支援やIT調達プロセスの標準化・ナレッジ整備活動を通じて、企業のITプロジェクト成功を支援している。

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